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はしがき

 

この報告書は、財団法人日本船舶振興会(日本財団)の平成10年度補助事業として実施した「無線による先進的信号システムの開発」事業についてまとめたものである。

信号システムは、これまで列車運転の安全確保のみならず、高速、高密度運転の実現に重要な役割を果たして来た。しかし近年、鉄道輸送の質を更に向上させるために、信号システムがこれまで以上に運転時隔の短縮や柔軟な運転を可能にする事を要請され、一方で建設コスト、保全コストの低減が求められている。

このような情勢の中で、最近発展が著しいディジタル技術及び無線通信技術を用いた信号システムの研究開発が世界各国で行われるようになった。

本事業も無線による高性能な信号システムの開発が目的であって、これまでの軌道回路を基本としたシステムは勿論、以下で述べるように他で開発中の無線による信号システムとも異なる特徴を有するシステムであると考える。

今回開発するシステムでは、ギガヘルツ帯の小送信電力の無線通信を用い、線路に沿って通信が可能な距離間隔で固定局を置き、車上の移動局と組み合わせてTDMA方式による無線LANを構成する。この無線LANにより地上からは前方列車位置、線路条件等の保安情報を車上に、車上からは列車位置、列車番号等の保安情報を地上に送信する。列車は受信した情報と、自列車の固有データから速度制御パターンを作成し、それに従って走行するもので、閉そく方式としては移動閉そく方式に属する。

本システムには更に固定局に併設したフェイルセイフなトランスポンダ形列車検知装置があり、これを境界とするチェックイン・チェックアウト機能によって、車上からの列車位置情報とは独立して装置間に存在する列車本数と列車番号を監視している。

このように2重に列車位置を監視するシステムであるため、地上又は車上装置の電源断等の異常状態からの運転の回復を安全かつ迅速に行うことが出来るものである。

本事業においては、システムの詳細検討、模擬保安伝送装置の試作とそれによる列車間隔制御機能の確認、トランスポンダ形列車検知装置の試作試験及び実際の鉄道の現場における無線周波数帯の雑音の調査を行った。

これらによって本システムを実現するための、多くの知見を得る事ができ、また実用化のために今後検討すべき点も明らかになった。

本開発事業は、社団法人日本鉄道電気技術協会に、「無線による先進的信号システムの開発」委員会を設置して審議を行い、試作・試験については日本信号株式会社に委託して開発を行ったものである。

ここに関係各位のご協力に対して深く感謝の意を表す次第である。

 

平成11年3月

社団法人 日本鉄道電気技術協会

 

 

 

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