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診料の導入によって医療費の抑制をしようとする考えが政治課題になったこともあるが、医師会および殆どの政党が信頼関係の維持のほうが重要であるとの判断から反対して実現しなかった。なお、どの医師を自分の家庭医にするかの選択権は患者側にある。従って、評判の良い医師や、数人で行っている家庭医グループ診療所などでの登録者は多くなる。一応、市場原理が働いているから家庭医は自由業で、全国平均では、1人の家庭医に対して子供を含めての登録者は約1600人である。

支払い方式は、イギリスのような人頭払いと、日本のような出来高払いを合わせた制度になっている。人頭払いだと、いくら患者が来ても収入が一定しているから、できるだけ患者が少ないほうがよいと家庭医が考えれば過小医療の可能性があるし、出来高払いだと医療行為を沢山しなくては収入にならないから過剰医療の可能性があるという、いずれの制度にも構造的問題がある。デンマークでは、人頭払いの部分で事務運営費が出るぐらいを保証し、残りを出来高払いにしている。そして、支払い側である県が、全県の家庭医の出来高平均収入を5%とか10%超える医師に対して、説明を求めるという監査方法を行っている。
これは、保険方式に比べて事務費が著しく少なくすむから事務費の無駄を省くことができる。だから診療報酬表もデンマークではA4の用紙で僅か2頁で済んでいる。事務よりも、現場の医療に時間とお金を使おうという姿勢は、後で見る高齢者福祉でも同じである。こういう姿勢が日本の医療・福祉制度には全く見られない。それが日本の社会保障制度の最も重要な問題だと思う。デンマークと日本の社会保障制度の構造や考え方が極めて異なっていることを念頭に置いて以下の論考を読んでいただきたい。

初診料、診察料、手術料などすべて利用者には無料である制度は、資本主義経済の社会では極めてまれである。しかしデンマークでは必要なときに、必要な医療行為を、必要な期間受けることが出来る制度を公的に築いてきた。公的サービスは民間に比べて非効率だとする考えが資本主義諸国にはあるが、デンマークでは非常に短い平均入院日数などで見られるように、公的制度が効率的な制度を運営していることも特筆すべきだ(Navaro・1998:608)。どうしてこういうことが可能なのか、その仕組みを以下の各章で見ることにする。

 

 

 

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