日本財団 図書館


はじめに

 

「国際高齢者年・1999」が国際連合によって決議されたように、高齢者の問題を全世界が考えなければならない時代が到来したようです。私共エイジング総合研究センターの人口問題専門家などの解説によれば、全世界で死亡率低下や寿命の伸長が進んでおり、60歳あるいは65歳以上の人口が爆発的に増加しており、それに加えて、日本など多くの先進国で進んでいる少子化が、今やアジアなど開発途上といわれている地域諸国でもその傾向が見られるようになり、世界全体としても少子高齢化が進んでいると解説しています。

エイジング総合研究センターが、日本、中国、韓国、台湾等東アジア地域の人口学、老年学等の専門家と相図って、「東アジア地域の高齢化に関する専門家会議」を東京で開催したのは1994年6月でありました。その開会の場で私は「東アジア地域における人口高齢化や高齢者事情の特性を究明していただき、東アジアの各地域に適した高齢者対策の推進に役立つ研究を期待したい」と述べていますが、同時に「日本の先行事例を十分観察されるよう」に申し添えました。どちらかと言えば、日本の経験が役立つことの方が実情に合っていると考えていたためです。

しかし、それから5年、再び東京で開催された第5回会議に臨んで聞く内容は、あの中国も全人口の高齢化率が7%に達したなど、この間のあまりにも速い各国各地域の高齢化社会の進行でありました。会議テーマも進展し、日本にとっても今後の課題となっている「都市の高齢化とその対応対策」であり、紹介された上海、台北、ソウル、太郎など東アジアの大都市の状況は、日本の東京などと比べても極めて興味深い内容でした。

ここに上梓する「東アジア地域高齢化問題研究/都市の少子高齢化と高齢化社会対策(シリーズII)」は、前年先行してまとめられ“シリーズI/上海・シンガポール”に続くもので、韓国/ソウル・大邱、台湾/台北・高雄についての調査研究であります。これらの都市は、東京、上海などと比べ、未だ高齢化率は低い状況にあるようですが、少子高齢化の状況や高齢者事情は日本の最近の変化と似ておもしろいものです。サミュエル・ハンチントン教授説によれば、中国と日本の文化は今日では異なる類のものになっているのでしょうが、高齢者事情から見る限り、東アジア地域の共通性、類似点はまさに多岐にわたります。

そして、この報告書(シリーズI/上海・シンガポールも含め)について老婆心から付記しておきたいのは、韓国、台湾の専門家が会議で話した「家族や社会におけるお年寄りの地位、尊厳というものが、遅れている福祉を補っている」という視点です。高齢者の社会的存在観については、上海、台北などの対策状況からも窺えなくはないのですが、様々な施策が重複し混在する我が国の状況紹介に慣れた私共日本人は、つい制度ばかりにとらわれがちになるからです。最近、欧米そして東南アジア地域からの東アジア社会の研究者が増えつつあることにも鑑みて、敢えて付記したところです。

最後に、この「東アジアの高齢化研究」につきまして、当初から御支援を賜っている日本財団に対し、東アジアの関係専門家一同、並びにエイジング総合研究センターを代表して、厚く御礼申し上げる次第です。

 

エイジング総合研究センター

理事長 高木文雄

 

 

 

目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION