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体育科学センター第12回公開講演会講演要旨/幼児の精神的発達と運動



幼児の精神的発達と運動

勝部篤美*

1.精神発達と運動発達との一般的関係
 新生児は中枢神経系の発達がきわめて低い段階にあるので,原始的な反射運動は見られても,自分の意志で行う随意運動は行われないし,精神現象と見られる知的・情緒的表出はほとんどみられない.
 しかし,乳児期以後,身長・体重などの形態面での量的増大が著しくなると,それにともなって機能面での質的向上が起こり,中枢神経系の発達により反射運動は次第に消失し,随意運動がこれにとって代わる.この随意運動の発達過程は,知的・情緒的発達とある程度並行している.
 図1は,乳幼児の心身の発達を月齢別に示した高良とみ女史の研究資料をもとに,筆者が作図したものである.この図に見られるように,小さい声を出して笑うという情緒的表出のできる頃には首も固定するので,両者の発達曲線は並行している.また,玩具をほしがるという意志表示がなされる頃には寝返り動作もでき,母親を呼ぶようになる頃には物を投げることもできるようになるので,これらの意志表示と身体動作との発達曲線も並行している.
 したがって,乳児を観察していて,首が固定するようになれば,もうそろそろ小さい声を出して笑うのも間近いなと考えてもよいし,母親を呼ぶようになれば,もうそろそろ物を投げるようになるぞと予想することもできる.
 このように,乳児期においては,精神発達と運動発達とは密接に関係しているので,それらのどちらかに障害があると,他方にも影響がおよぶ.
 しかしながら,その後,幼児期から少年期へと進むにしたがって,精神発達と運動発達との関係は次第に薄れてくる.その理由は,運動発達は比較的はやく完成し,身のこなしの器用さ(調整力)などは小学校高学年でほぼ大人の水準に近づくのに対して,精神発達の方は複雑で,青年期あるいはその後までも多面的に伸び続けるからである.



図1 乳幼児の精神発達と運動発達との関係
(高良とみの表より勝部が作図)

*名古屋大学
於:国立教育会館大会議室 昭和59年7月14日


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