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病状はしかしながら,はっきりと進行を続け,遠からず麻痺昏睡状態がくることが予測できました。
 数回の訪問で私たちは彼女の人生歴を聞き,彼女が強い人であると確信できましたが,最終検査の結果を自分から聞き出す勇気をもてないでいることもわかりました。われわれは,まず娘たちとゆっくり話し合う機会を持ちました。その結果,ある週末にその家族はホームドクターを呼んで,病人と一緒に迫ってきている避けられない状態について語り尽くしたということでした。病人はその1ヵ月ほど後に,たまたま私の仲間が付き添っていたときに家で亡くなりました。
 われわれがこの家庭訪問でしたことは,初めのうちは他の場合と同じように,最後の手助けとしてトイレに付き添うこと,食事の介添えをすることのほか、少しずつ語ってくれる彼女の人生歴の聞き役をすることでした。このケースがわれわれにとって特別のケースとなったのは,告知問題に関連して家族と関わったためです。このような関わりはしかしながら,どの家族とでもできることではなく,緊張を要することです。

人との触れ合いと信頼感の成立

 ホスピスボランティアに与えられる恵みというものは,死を前にした人ともつことができる真の人間同士のコミュニケーションです。それは年齢職業,宗教,国籍などの違いを,すべて抜きにした人間同士の触れ合いです。幸運な場合には,訪問される者と訪問者の間にこのような関係が生まれます。二者の間にこの信頼感が成り立てば,ホスピスボランティアにもむずかしい告知の問題に介入することが許されるのみならず,このような場所にこそホスピスボランティアの役割,すなわち専門性があります。

 

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