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まえがき/日野原重明

 本誌は,1998年1月3日・4日に当財団のピースハウスホスピス(神奈川県中井町)で行われた第5回ホスピス国際ワークショップ『チームケアと教育プログラム―セント・クリストファーズ・ホスピスに学ぶ』と題して行われたセミナーの講義を編集して作成したものである。ピースハウスホスピスに付設するホスピス教育研究所の主催によるこの国際ワークショップは開所以来毎年開催しているが,招聘する講師陣が世界の緩和ケア関係者の中でも屈指のメンバーであることに加え,日本の参加者は少数に絞るとともに,同一施設から医師,ナース,薬剤師などチームによる参加を勧め,自施設の問題を持ち寄り,主体的に討議に加わることを条件としている。
 このようにして海外の講師とともにディスカッションされたことがらは,一般的にこれまでのワークショップによくみられるような問題をただ形面上的に論ずるものではなく,日常的に遭遇する事態に,緩和ケア医療に先駆的に取り組んできた招聘講師から具体的な知恵と技術とを提示してもらい,日本という風土により適合したものに練り上げていく,つまり借り物ではない問題解決技法の適用なのである。
 とくに,今回のセント・クリストファーズ・ホスピスの「チームケアと教育プログラム」というワークショップでは,講師としてお招きしたIreno Higginson医師とPenny Smith看護婦の長年の経験によって得られた緩和ケアヘのかかわり方の真髄を率直に私たちに伝えてくれている。このお二人の講師によって語られていることは,1967年に世界に先駆けて設立されたセント・クリストファーズ・ホスピスの三十数年にわたる試行と体験によって得られた貴重なエキスであって,後につづく私たちにとってもいずれ遭遇すべき事象であることは十分予測される。先を歩んだ人の軌跡を糧として生かすことのできる私たちの幸せを感謝して,わが国の緩和ケア医療をよりよいものとなるように努力することが,ここで与えられた貴重なサゼスチョンに対する私たちの何よりの感謝の表明ではないだろうか。ワークショップでは,お二人の講師は医師とナースという役割に応じて各テーマを語られたが,本誌ではそれらを分かつことなく「セント・クリストファーズ・ホスピス」として編集した。なお,お二人のプロフィールは下記のとおりである。

●Irene Higginson,BMedsci,BMBS,FFPHM,PH.D
 ノッティンガム大学医学部を卒業後,一般内科,放射線科,腫瘍内科などの経験を経て,緩和ケアと公衆衛生学を専門とし,政策にも関与する。症状マネジメント,心理社会的ケア,QOL,さらに緩和ケアの質の評価まで幅広く研究,たくさんの論文を発表している。現在は,ロンドンにあるキングスカレッジの緩和ケアの教授であるとともに,セント・クリストファーズ・ホスピス教育部長も務め,教育・研究のリーダーとして活躍。なお,キングスカレッジには,緩和ケアの修士コースがあり,緩和ケアに参与する多職種を対象に開講している。

●Penny Smith,R.N.
 緩和ケアの分野で15年間の経験を持つベテランナース。病棟の婦長として5年間勤務の後,セント・クリストファーズ・ホスピスの在宅ケア部門部長として多職種からなるチームを率いて400人以上の患者を在宅でケア。豊富な臨床経験とともに,管理者としての経験も長く,さらに緩和チームヘの教育指導,専門書の共同執筆や雑誌編集にも関与するなど,多方面で活躍中。

 緩和ケア医療(ホスピス)の現場で働くすべての関係者,そして緩和ケア医療に関心をもつすべての方々に,医療現場の先端で良心的にかかわっている緩和ケア医療のありのままの状況を知り,皆さんの資源として活用していただくことを願う次第である。

 

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