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  これも先に挙げた外来重視の医療提供システムの政策と相関しています。ほとんどの医療行為が外来で展開されるのですから,たとえば術前の種々の検査などはすべて通院でなされるわけですし,また手術も日帰りでなされたり,あるいはせいぜい3,4日の入院で退院していくのですから,在宅でなされる医療行為の比重が非常に増してきます。ということは,患者自身,もしくは家族の医学知識や医療行為が不可欠ですし,それを患者個々の状況に合わせて指導する健康教育の指導者や訪問看護婦,ソーシャルワーカーなどのスタッフが必要です。

 これらの条件をすべて満たした学習センターが出現していたのです。全米一の規模といってもいいでしょう。ここで壮大な実験を始めようとしているのです(表1)。

 第4は,病院で行われる臨床医学教育や看護教育が大きく様変わりしてきたことです。 アメリカで大きく発展し臨床医学のレベルを飛躍的に高めたベッドサイドティーチングが,わずか4日か5日の入院期間では十分に教育機能を発揮できなくなったのです。これはナーシングについても同様です。この点でも入院から外来に教育の視点を移さなければならなくなりました。ここでは何が大事になったかというと,患者さんとのコミュニケーションです。

 外来において,特に初診の場合には綿密な問診が必要になります。日本のように入院させて様子を見るというような悠長なことは言っていられないからです。高度な医学知識を動員し,しかもその人の経済的・社会的環境,そして家庭環境まで考慮して診療し,その上厳しい管理医療(managed care)のワク内で行わなければならないのです。

 アメリカの医療はここ1,2年のうちに大きく様変わりしてきました。「アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪をひく」といわれたのは,政治的・経済的に大きなアメリカの影響下に置かれた日本の状況を揶揄したものでしたが,医療の世界でも例外ではありません。医療先進国のアメリカがこのような大波に洗われているのを私たちは決して対岸の火事として看過するのでなく,日本の21世紀のあるべき医療のテキストとして,ここから何を学ぶべきかをよく見極めなければならないと思います。

 

 

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