CD、シングルレコード、全部合わせまして、20枚ほどございます。証拠を持ってまいりましたので、ちょっと聞いていただきたいと思います。じゃあ、お願いします。
(曲名=「ワインカラーのときめき」)
はい、どうもありがとうございました。これは77年の、化粧品会社カネボウの秋のキャンペーンテーマソング。ざっと50万枚ぐらい売れたのですが、そういう歌を歌っておりました。
そんなわけで、テレビCFのプロデューサー、多忙な上に今度は歌手。しかもこれは業務命令です。北海道から九州までコンサートをして回ったという、大変珍しいサラリーマンもあったものです。殺人的な毎日でございました。
これを10年間続けておりまして、突然、今度は本社に転勤ということになりました。それまでは神戸で気分よく、六甲山の上に家を建てて暮らしていたんですけれども、突然、今度は東京で勤務しろということになりました。それまではテレビCFという、フイルムの世界で生きてきたんですが、今度はビデオをやれということになりました。ニューメディアに対応したビデオソフトを作れという、そういう仕事になったわけです。心身ともにフイルムの世界では疲れ果てておりましたので、今度はビデオで何を作ってもいいというふうにいわれましたときに、いっそ今までとは全く逆の世界を作ってみようかなというふうに思ったわけでございます。
いろんなビデオソフトを作りましたが、とりわけ一番力を入れて作りましたのが環境ビデオ、バックグラウンドビデオ、あるいはバックグラウンドビジュアル、BGVという世界でございます。BGMという世界があることはもちろん皆さんご存じだと思います。バックグラウンドミュージックでございますね。環境音楽ですね。BGM、環境音楽があるならば、環境映像という世界があってもおかしくはないんじゃないかというふうに思いまして、私たちのチームがでっちあげたわけなんです。それまでBGMはございましたけれども、BGVという言葉はなかったんですね。BGV、環境映像、環境ビデオを作りはじめたというわけです。
日本中の美しい大自然を求めまして、北海道から九州まで撮影して回りました。富士山とか北山杉とか竹林とかもみじとか滝とか、もう数百タイトルの環境ビデオを作りました。ここでB GV、環境映像の定義、それは何だろうということなんですけれども、簡単に申し上げまして、見てもいいし、見なくても別にいいですと、そういう世界であるといっていいと思います。つまり、とても控えめな映像でございます。いってみれば、家具のような世界でございます。例えば、今、椅子という言葉を提示いたしましょう。この椅子は、自分のほうからは、声高に「俺は椅子だぞ」と、決して自己主張をいたしませんね。そのようなものでございます。今、皆さんは、もう朝から時間をはかりますと1時間ぐらいはこのホールの椅子に座ってらっしゃったと思うんですけれども、その間椅子のことはきれいさっばり忘れていたと思います。今私が椅子という言葉を提示して初めて、そういえば自分は椅子の上にもう1時間以上座ってるんだなというふうにお思いになったはずです。つまり、椅子は、自分のほうから、「俺は椅子だぞ」なんていうことは決して主張しない。家具というのは大体そういうものでございまずけれども。環境映像というものも、いってみれば椅子のようなものなんです。家具のようなものだというふうに申し上げていいのではないかなと思います。
ところでBGV、環境ビデオをご覧になったというふうに認識されてる方、どの位いらっしゃいますでしょうか。ああさすがに多いですね。ありがとうございます。ナショナル・トラストの方々は、アンテナが高うございます。半分ぐらいの方が見たことあるというふうにおっしゃっていただきました。
では、早速私が作りました環境ビデオ、その一部をご覧いただきたいと思います。
(環境ビデオの上映)
今ご覧いただいているこの環境ビデオは、「桜」というタイトルでございます。いわれなくても、見ればすぐわかる桜の木が映っております。環境ビデオの傑作中の傑作というふうに誰もいってくれないので自分でいってる作品でございますが、全部で1時間の作品でございます。1時間、ずうっとこの桜が、この形のまま映っております。スチール写真ではありません。映像、ビデオでございます。よく見ると動いておりますね。風が吹けば枝がちょっとだけ揺れて、ひらひらと花びらが散るときもございます。ときどき鳥もさっと飛んだりいたします。1時間ずうっとビデオカメラはフィックスされておりまして、