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■事業の内容

船舶への超電導技術の応用として、当財団では超電導電磁推進装置の開発を進めてきたが、平成4年6月に実験船「ヤマト1」が世界初の海上航走に成功し、超電導電磁推進装置が船舶の推進装置として使用できることが実証された。
 しかしながら、超電導電磁推進船の実用化のためには超電導磁石の高磁界化を始めとして、大口径化、軽量化、励磁方法、冷凍技術等の技術開発が必要である。
 本事業では、超電導磁石の高磁界化、海水の導電率向上等について広く情報を集めるとともに、超電導電磁推進装置の高出力化に関する研究課題について調査研究を行い、超電導電磁推進船の実用化を図るため、以下の事業を実施した。
 [1] 超電導電磁推進船用永久電流スイッチの概念設計
   平成8年度に開発した3,000A級Nb3 Sn永久電流スイッチを用いて、定格通電流以上の電流を流す限界通電試験等の基礎実験を行うとともに、Cu−30wt%Ni基材のNb3 Sn超電導線を試作して特性試験を行なった。また、試験結果を基に10,000A級永久電流スイッチの概念設計を行った。
 [2] 高磁界用線材の性能向上等の調査研究
   Nb3 Sn超電導線材による高磁界超電導コイルの巻き線時の性能劣化原因究明を行うため、試作コイルを製作し絶縁特性試験を行うとともに、ハーフターンコイルを製作し、熱処理特性の調査および高磁界実験装置によるクエンチ特性試験の準備を行った。
   また、実験用超電導コイル巻き線部のエンドパーツの設計およびコイル固定用エポキシ樹脂含浸装置の設計・製作を行った。
 [3] 海外における開発状況の調査
海外における超電導磁石や超電導電磁推進関連の開発状況等について、国際会議に参加し、情報収集及び調査を行った。
  a.会議名   第15回国際磁石会議
          (15th International Conference on Magnet Technology)
  b.開催日   1997年10月20日〜24日
  c.場  所  中華人民共和国  北京市
  d.参加者   玉 眞 洋(第二研究調査部 部長)
  e.会議内容  超電導電磁推進装置、強磁界磁石、高温超電導、加速器等
 [4] 委員会の開催
   開催日および主な審議事項(3回開催)
   ○第11回 平成9年5月21日(水)
    ・平成9年度事業計画について
    ・平成9年度事業実施計画(案)について
   ○第12回 平成9年12月15日(月)
    平成9年度事業実施経過について
    ・1,0000級永久電流スイッチの開発
    ・化合物超電導磁石の開発研究
   ○第13回 平成10年3月3日(火)
    ・平成9年度事業報告書(案)について
■事業の成果

超電導電磁推進船「ヤマト1」の実海域における航走実験の結果、超電導電磁推進装置が船舶の推進装置として使えることが実証された。しかし、その実用化のためには、高磁界・大口径超電導磁石の開発を始めとして、励磁システムや冷凍システムなど開発すべき技術課題が数多くある。
 本年度は、平成7年度から実施している「Nb3 Sn超電導コイル巻き線技術の開発」および「Nb3 Sn永久電流スイッチの開発」を引き続き行った。
 まず、「Nb3 Sn超電導コイル巻線技術の開発」に関しては、平成7年度に製作した超電導コイル巻線機によりNb3 Snを用いた試作コイルを製作し、直線部分についての巻き線状況の確認を行った。また、Nb3 SnとNb3 Al超電導線材でハーフターンコイルを製作し、熱処理後の絶縁特性について調査を行った。
 更に、実験用コイルを製作するため、コイル性能に大きく影響するコイルエンドパーツの設計を行うと共に、実験用コイル固定用エポキシ樹脂含浸装置の設計・製作を行った。
 また、「Nb3 Sn永久電流スイッチの開発」に関しては、10,000A級大電流・高安定性永久電流スイッチの開発を目的として、平成8年度に製作した3,000A級「Nb3 Sn永久電流スイッチ」の限界電流通電試験および耐振性向上のための加振試験を行うと共に、10,000A級「Nb3 Sn永久電流スイッチ」の概念設計を行った。本事業における成果は次のとおりである。
 [1] 超電導電磁推進船用永久電流スイッチの概念設計
  [1] 3,000A級永久電流スイッチの限界通電試験を行った結果、本永久電流スイッチの1テスラにおける限界電流は4,800Aと推定される。また、振動試験の結果、高周波数の振動が加わる場合は電流リード部の振動を抑制する様な構造が必要であることが分かった。
  [2] 10,000A級Nb3 Sn永久電流スイッチの概念設計では、単一構成と並列構成の両方で検討を行った結果、質量・体積、安定性の点から単一構成が適しており、単一構成での質量は46kg、大きさは直径400mm、高さ110mmの円筒形状となった。単位[オフ抵抗値×(電流)2 ]当たりの質量および体積について、「ヤマト1」で使用した4,000ANbTi永久電流スイッチとを比較すると、質量で20%、体積で15%の軽量・コンパクト化が図れた。
  [3] オン−オフ特性の計算機シミュレーションでは、オフ抵抗6Ωの単一構成の場合ヒーター加熱200Wで180秒後に超電導線が100%常電導転移することが分かった。
  [4] 以上より、Nb3 Sn超電導線を使用した大電流・高安定性の永久電流スイッチの見通しを得ることができた。
 [2] 高磁界用線材の性能向上等の調査研究
  [1] 超電導コイル巻線機を用いてNb3 Sn試作コイルを製作し、コイル直線部の巻き線状態および低温時の絶縁特性を調査し、問題ないことを確認した。
  [2] Nb3 SnとNb3 Al超電導線材でハーフターンコイルを製作し、熱処理後の絶縁特性を調査した。また、D20高磁界実験装置で高磁界中におけるコイルの挙動に関するデータを取得した。
  [3] 巻き線時の性能劣化原因究明のための実験用コイルを製作するために、コイルエンドパーツ(コイル端部部品)の設計および含浸治具の設計・製作を行った。





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