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■事業の内容

近年、国民の余暇時間の増加等により水上レジャーが身近になり、小型モーターボートが急速に普及するにつれて要求事項も多様化し、乗り心地や環境問題等の観点から、騒音の低減化を求める声が強くなってきている。今後の小型モーターボートのさらなる普及、発展のためには騒音改善が重要かつ火急の課題である。
 ところが、特に小型高速艇においては、これまでスピード性能や燃費、品質などの改良が技術開発の中心にあって、自動車産業等に比べると騒音低減についての研究が必ずしも十分に行われてきたとは言いがたい。
 そこで、本事業では小型高速艇用船外機、及びその艇体から発生する音の低減化を目指した研究開発を行うことで、小型高速艇の改善を図り、我が国造船技術の向上、及び海事産業の発展に寄与するため、以下の事業を実施した。
[1] 予備試作品の設計・製作
  現有するM4型モーターを用いて、これまでに得たデータや経験をもとに以下の予備試作品の設計、製作図面の作成、製作を行なった。
  [1] モーターカバー
    吸気音の低減および遮音を目的としたパワーヘッド全体を覆うモーターカバーを、設計・製作した。  
  [2] プロペラボス排気ロワーユニット
    排気音の低減を目的とし、排気孔をプロペラボス内に変更したロワーユニットを設計・製作した。
  [3] クランクシャフト、ドライブシャフト
    メカニカルノイズ低減を目的としたクランクシャフト、ドライブシャフトを設計・製作した。
 [2] 予備試作品の台上出力試験
   上記予備試作品による台上試験を行い、出力の変化を調べた。
 [3] 予備試作品の航走試験
   上記予備試作品による航走試験を行い、最高速度、通過騒音(50m)を調べ、効果を確認した。
 [4] 台上音源解析試験
   現有するM4型モーターとM4型モーター予備試作品仕様において、動力計定常運転で音響インテンシティ法による音源解析試験を行い、予備試作品の減音効果を確認した。
 [5] 船体共鳴音の解析試験
  [1] 船体放射音の推定
    実走行時の船体各部の振動計測と、インパクトハンマー試験での船体放射音、振動の計測により、全船体から放射する音圧を推定した。
  [2] 船体共鳴音の解析
    無響室内でインパクトハンマー試験を行ない、船体の共振周波数を音響特性と振動特性として調べ、それらの低減方法について検討した。
 [6] 係留運転時の音源解析試験
   現有するM4型モーターと301型モーターにおいてピットで係留運転を行い、定常STSF法を用いて音源解析試験を行った。
 [7] 航走運転時の音源解析試験
   非定常STSF法により航走運転時の全体音響解析を行い、モーターと船体からの音の分布状況を把握した。
 [8] 一般向けレジャー用船外機による航走解析試験
   エンジン出力が30PSの一般向けレジャー用船外機を現用の競走用ボートに取り付け航走解析試験を行なった。調査内容は、基本性能の把握と減音対策用部品であるモーターカバーの有無、防振ダンパーの有無など構成部品を置換させた仕様での通過騒音レベル(成分)の計測で、これらの減音効果を確認した。
 [9] 一次試作品の仕様の検討、仕様書の作成
   上記の調査・研究結果をもとに一次試作品の仕様を決定し、仕様書を作成した。
 [10] 一次試作品の設計、製作図面の作成
   以下の4項目の設計、製作図面の作成を行なった。
  [1] 機関本体
    クランクシャフト、コネクチングロッド、ピストン、クランクケース、シリンダケース、シリンダーヘッド、エキゾーストフランジ等
  [2] 吸気系
    リードバルブ、モーターカバー等
  [3] 排気系
    エキゾーストパイプ、キャリアボデー等
  [4] 点火系
    フライホイールマグネトー、リンク装置等
 [11] 騒音計測地点の音場特性測定
   航走解析試験時の騒音計測地点における音場特性を把握し、騒音レベル評価に適切であるかを以下の二通りの方法で調査した。
  [1] 基本音場特性の測定
    基準音源を発生させ、距離による音圧の減衰を計測し、評価した。
  [2] 反射音測定
    衝撃音を発生させ、騒音計測地点での音圧の時間波形を計測し、評価した。
 [12] 委員会の実施
  [1] 第1回 小型高速艇の減音化に関する研究開発委員会
   a.日 時 平成9年5月12日(月)13:30〜16:00
   b.場 所 平和島競艇場 5階会議室
   c.出席者 小西睦男(委員長)他13名
   d.議 題 a 発生音の状況視察
         b 事業計画について
         c 実施計画(案)について
  [2] 第2回 小型高速艇の減音化に関する研究開発委員会
   a.日 時 平成9年11月26日(水)10:30〜13:00
   b.場 所 船舶振興ビル 10階会議室
   c.出席者 小西睦男(委員長)他15名
   d.議 題 a 中間報告について
         b 今後の予定について
  [3] 第3回 小型高速艇の減音化に関する研究開発委員会
   a.日 時 平成10年3月4日(水)4:30〜16:00
   b.場 所 船舶振興ビル 10階会議室
   c.出席者 小西睦男(委員長)他14名
   d.議 題 報告書について
■事業の成果

[1] 予備試作品の台上出力試験
   M4型モーターに予備試作品を組み込んで台上出力試験を実施した結果、
  ・M4型従来仕様と排気孔をプロペラボス内に変更したプロペラボス排気仕様との比較で、同等の性能が得られた。
  ・M4型従来仕様と大端部のラジアル、スラストすきまを縮小したクランクシャフト予備試作品仕様との比較で、同等の性能が得られた。
 [2] 予備試作品の航走試験
   M4型モーターに予備試作品を組み込んで速力試験を実施した結果、
   ・M4型従来仕様とパワーヘッド全体をモーターカバーで覆ったモーターカバー仕様との比較で、同等の性能が得られた。
   ・M4型従来仕様と大端部のラジアル、スラストすきまを縮小したクランクシャフト予備試作品仕様との比較で、同等の性能が得られた。
   M4型モーターに予備試作品を組み込んで通過騒音計測を実施した結果、
   ・M4型従来仕様とパワーヘッド全体をモーターカバーで覆ったモーターカバー仕様との比較で、モーターカバーにより3.3dBの減音効果を得ることができた。
   ・ウォーターインテーク排気方式であるM4型従来仕様と排気孔をプロペラボス内に変更したプロペラボス排気仕様との比較で、どちらも同等の測定値となり、小型高速艇の排気方式として従来通りのウォーターインテーク排気方式が適切であることが確認できた。
   ・マフラー本体とキャリアボデー壁面双方を防振させるゴムを組み込んだ防振ゴム付マフラー仕様と防振ゴム無仕様との比較で、防振ゴム付仕様は2.6dBの減音効果を得ることができた。
 [3]台上音源解析試験
   301型モーターの台上音源解析試験を実施した結果、
   ・吸気音は、250Hzと500Hzで顕著に表れることが判明した。
   ・排気音の透過と思われるエキゾーストフランジ部の音は、250Hz、1600Hz、2000Hzであることが判明した。
   ・ステーターベースから、1600Hzの機械音が発生することが判明した。
   M4型モーターの台上音源解析試験を実施した結果、
   ・吸気音は、200Hzと400Hzで顕著に表れることが判明した。
   ・排気音の透過と思われるエキゾーストフランジ下部の音は、630Hz、1250Hz、2500Hzであることが判明した。
   ・クランクシャフトの機械音と思われる音は、1600Hz、2000Hzであることが判明した。
   M4型モーターのパワーヘッド全体をモーターカバーで覆ったモーターカバー仕様の台上音源解析試験を実施した結果、
   ・全周波数帯全域においてきわめて高い減音効果が得られることが判明した。
   M4型モーターに大端部のラジアル、スラストすきまを縮小したクランクシャフトを組み込んだクランクシャフト予備試作品仕様の台上音源解析試験を実施した結果、
   ・機械音と思われる1600Hzと2000Hz帯域において、2dB以上の減音効果が得られた。
 [4] 船体共鳴音の解析試験
   船体放射音の推定
   ・実走行時の船体各部の振動計測と、インパクトハンマー試験での船体放射音、振動の計測で、全船体から放射する音圧を推定した結果、120dB程度であることが判明した。
   船体共鳴音の解析
   ・無響室内でインパクトハンマー試験を行ない、船体の共振周波数を音響特性と振動特性として調べた結果、
   ・デッキ5番6番フレーム中間部が船内外騒音に最も大きく影響し、かつ振動から音になり易いことが判明した。
   ・船内騒音の実測値と計算式から求めた値が一致したことから、400Hzは右舷デッキ下空間の左右方向の気柱(空洞)共鳴周波数であると考えられることが判明した。
   ・船外騒音は、1200Hz前後まではモーターからの前後方向の強制力の影響を強く受け、1200Hz以上では左右方向の強制力の影響を強く受けることが判明した。
   ・デッキ5番6番フレーム中間部の振動は、430Hz付近はモーターからの前後方向の強制力の影響を強く受け、1200Hz以上では左右方向の強制力の影響を強く受けることが判明した。
 [5] 係留運転時の音源解析試験
   現有するM4型モーターと301型モーターにおいてピットで係留運転を行い、定常STSF法を用いて音源解析試験を行なった。この結果、
   ・301型に比べてM4型は約8dB低騒音化されていることが判明した。
   ・200Hz帯から500Hz帯は船体に音源が存在することが判明した。
   ・モーター部分の音源位置、およびその周波数を明確に把握することができた。
[6] 航走運転時の音源解析試験
  非定常STSF法により航走運転時の全体音源解析を行なった結果、水面と水面から高さ60cmの位置に顕著な空間移動音源が確認できた。台上音源解析試験結果と係留運転時の音源解析試験結果と合わせて、水面位置は排気音、水面から高さ60cmの位置は吸気音であることが判明した。
 [7] 一般向けレジャー用船外機による航走解析試験
   一般向けレジャー用船外機を現用の競走用ボートに取り付け航走解析試験を行なった結果、
   ・速力は、現用機と比べ大幅な重量増加、出力不足、ギヤケース部の抵抗増加などにより、約10%低下した。
   ・50m通過騒音レベルは、1.8dBであることが判明した。
   ・モータカバーによる減音効果は71.8と、きわめて高いことが判明した。
   ・ブラケットの防振ダンパーは減音化に寄与していないことが判明した。
 [8] 騒音計測地点の音場特性測定
   航走解析試験時の騒音計測地点における音場特性を把握し、騒音レベル評価に適切であるかを調査した結果、観客スタンドの存在による反射の影響が測定結果に表われこれまでの計測地点は音響的に適切でないことが判明した。この結果を踏まえ、計測地点を沖合いの消波装置上に変更した。





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