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■事業の内容

本研究では、船舶遭難時の避難・脱出装置のひとつである自由降下式救命艇システムについて、システム全体の性能改善による安全性の確立と設計技術並びに製作技術の高度化を図るため次のとおり実施した。
 [1] 救命艇の最適形状及び構造等の設計技術の研究
  [1] 衝撃圧推定手法の研究
    救命艇の水面衝突時の荷重設定法について検討を行い、各部に発生する衝撃圧を推定するプログラムを開発した。
  [2] 着水後艇体運動推定手法の研究
    平成8年度および本年度に行った模型試験結果との比較検討から、救命艇の様々な降下条件に応じて水面衝突後の艇体運動を推定する計算プログラムを開発した。
  [3] 艇体応力推定手法および艇体材料の研究
    着水時の衝撃力により艇体各部に生じる応力を推定するため、来年度実施する大型模型実験に使用する模型と同じ材料で試験片を製作し、引っ張り試験、曲げ試験など6種類の艇体材料試験を行い、構造強度評価のためのFEM構造解析法について検討した。
  [4] 最適形状導出手法の研究
    衝撃圧を軽減し、水面衝突後の不安定な艇体運動を抑える最適な艇体形状を設計する手法について、[1]項、[2]項のプログラムおよび[5]項の模型実験の結果も踏まえながら検討した。
  [5] 模型実験による検討
    上記[1]、[2]、[3]項で作成する計算プログラム検証のための模型実験を行い、加速度および運動計測データの解析を行った。
  [6] 大型模型実験による検討
    来年度行う大型模型実験について、試験条件、スケジュール、実施体制などについて検討を行った。また、実験場所(日立造船因島工場)の現地調査を行った。
 [2] 最適回収システムの設計技術の研究
  [1] 最適回収手法の研究
    昨年度の検討で出された回収システム案8種類についてコストを考慮しない場合も検討し、再評価した結果、回収システム案を2種類に絞り込んだ。これらについて船種別の配置検討を行い、船のサイズが大中小それぞれの場合の課題を抽出した。
  [2] 回収システムの検討
    [1]項で選定したシステムについて、従来方式との比較から自由降下式の場合の課題を抽出、検討した。また、回収クレーンの仕様について検討した。
 [3] 製作技術および総合的試験方法の研究
  [1] 大型模型の試作および性能評価の研究
    大型模型艇の詳細設計を行い、製作した。また、性能評価と人体への衝撃力の評価の文献調査を行った。
  [2] 衝撃緩衝用座席およびシートベルトの試作研究
    [4][1]項の実験に供するERP座席について、座席寸法やシートベルト取り付け位置について検討し、製作した。
 [4] 衝撃緩衝用座席およびシートベルトの効果の研究
  [1] 人体加速度の緩衝効果の研究
    衝撃試験機により座席とシートベルトの緩衝効果を調べる実験を行い、結果を解析した。
■事業の成果

信頼性の高い新たな自由降下式救命艇システムの設計・評価技術を開発することを目的に研究を行い、下記の成果を得た。
 本年度は3年計画の中間年度であり、初年度の研究を継続・進展させるとともに、最終年度に実施予定の大型模型による海面への進水・落下実験に対処するため、各種の検討と準備を行った。


 [1] 各種方式の進水・離脱システムおよび回収システムの優劣を比較した前年度の調査結果を踏まえ、その中から代表的な進水・回収システムを選び、概念設計を行った。

 [2] 衝撃緩衝用座席およびシートベルトの有効性の実験を実施するとともにその性能評価・解析方法について検討し、次年度の大型模型に採用するタイプを選定した。

 [3] 着水時の衝撃加速度、艇体応力、および着水後の艇体運動の推定手法を確立するため、前年度の痩せ形船型に対して、本年度は肥大形状の小型模型を用いて水槽落下実験を実施し、理論計算値との比較検討を行い、救命艇の衝撃を低減する船型、着水直後における救命艇の運動と問題点の把握、およびその解決策についての知見を得た。また、同じ肥大型模型を用いて、新しく国内で考案された二段滑台方式による水槽落下実験を実施し、本方式を採用した場合、着水後の艇体運動は正常であることを確認した。

 [4] 最終年度に実施予定の大型模型実験の目的と試験方法を検討した。救命艇の着水時の衝撃力および着水後の艇体運動推定手法については2年度にわたる小型模型実験により検討し、十分な知見を得た。





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