日本財団 図書館


■事業の内容

内航船の近代化については、若年船員の不足、船員の労働環境の改善等の問題もあり、これまでにも各種機関において研究及び検討が行われ成果を上げているが、昨今の景気の低迷による内航海運業界を取り巻く環境が厳しいこともあり、これまでの研究の成果が必ずしも実際の船舶へ普及していないのが現状である。
 このため、これまでの内航船の近代化に関する研究成果を十分に踏まえ、ワンマンコントロールを考慮した統合操船システム、快適居住設備、モジュール型機関室とこれに加えて離着桟時の操船性能を向上させるアクチュエータシステムの装備など、画期的な設備を内航船に装備し、その後の運航についての追跡調査を通じ、近代化仕様の内航船についての実証及び評価を行うことにより、今後の内航船の近代化に資することを目的に平成8年度より事業を開始し、本年度は最終年として以下の事業を実施した。
 [1] 実施体制
   本事業では、平成8年度に引き続き財団内に委員会を設置し、事業の実施計画等の審議・決定を行い、さらに作業部会を設けて具体的な実施内容についての審議・検討を行った。なお、本事業では実際に建造・運用される船舶を研究対象としているため、作業部会には内航近代化実証船の建造及び運用に関わる関係者を招致した。また、具体的な実船試験計画の策定、設備の有効性、経済性の確認等については、(株)郵船海洋科学に委託して実施した。
 [2] 実施内容
   平成8年度では、実証試験に使用される船舶(内航近代化実証船)の近代化設備に関する仕様の決定、装備及び性能の確認を行った。本年度では本船舶の実際の運航を通じて近代化設備の有効性の実証・評価を行い、成果の公表、内航近代化実証船の公開を実施した。
〔対象船舶(内航近代化実証船)の主要目〕
  ・船    主  エヌケーケー物流(株)、運輸施設整備事業団(旧船舶整備公団)
  ・船    名  翔陽丸(しょうようまる)
  ・船    型  全通2層甲板、船主バルブ付
  ・主要寸法    Lpp×B×D×d=70.0×12.0×7.12−4.18×4.14(m)
  ・総トン数    497トン
  ・載荷重量トン数  1,600トン
  ・主機関     1,324KW(1,800ps)×1基、A重油使用
  ・航海速力    12.5ノット
  ・航行区域    限定近海区域(非国際航海)
  ・主要貨物    鋼材
  ・主要航路    福山港を起点とした全国各地
  ・建造造船所   中谷造船(株)
 [3] 実証・評価
  [1] 実証試験
    平成8年度において建造された内航近代化実証船の実運航を通じて、装備された近代化設備の有効性を検証するとともに、技術的な課題等を整理し、さらに近代化船の経済性を検証し、近代化に関する具体的な検討に資することを実証試験の目的とした。
  ・試験項目と調査方法
    試験項目は内航近代化実証船の近代化設備として、統合操船システム、アクチュエータシステム、機関室機器モジュールならびに居住区とした。各試験項目の有効性ならびに経済性を調査するにあたり、評価結果は航行の状態に左右されることを勘案し、前提条件となるデータ(気象・海象データ、操船データ、レーダハードコピー)も併せて取得することを考慮した。また、実運航をとおしての調査となることから、データの取得は極力自動化するように配慮した。
    実証試験としての対象期間は平成9年2月1日から平成10年2月18日の約1年間とした。ただし、計測システムは平成9年5月14日から稼働した。近代化設備に関するインストラクションは、メーカーが内航近代化実証船に乗り込み、実運航を通じて実施した。また、調査員による乗船調査は平成9年5月、9月及び12月の3回実施した。
   a 統合操船システム
     内航近代化実証船が出会った航行環境を把握して操船の環境(交通環境)を明らかにした上で、統合操船システム(船位誘導機能、避航支援機能)の使用の有無による乗組員の疲労及び作業負担を比較するとともに、操船の結果(船位誘導の精度、避航開始距離、航過距離等)を検証し、「乗組員の負担」「操船結果の評価」の二つの面から統合操船システムの有効性を検証した。
   b アクチュエータシステム
     アクチュエータシステムの機能が発揮される局面は湾内操船であり、このときの操船環境を明らかにした上で、「乗組員の負担」と「操船結果の評価」に基づきシステムの有効性を検証した。また、荒天遭遇時においては操船の環境とともに、船体動揺量と乗組員の評価を取得し、アクチュエータシステムの荒天航行における有効性を検証した。さらに同システムを使用しての着離桟操船と在来モードでの着離桟操船での所用時間を比較し経済性の検証等も行った。
   c 機関室モジュール
     ブリッジ対応での信頼性(機関室アラームの発生頻度とその内容)、エンジンモニタ等の操作性(モニタリング及びリモートコントロールのし易さ)と乗組員の負担(作業内容・コメント)とで検証した。
   d 居住区
     居住区の快適性を居室における騒音・振動の計測と乗組員の評価から検証した。
  [2] 評価
    運航実績の計測、解析結果から安全性、経済性を解析するとともに、今後の課題をとりまとめた。
 [4] 成果の普及
   事業成果の普及促進のため、公開講演会及び内航近代化実証船の一般公開を実施した。また、内航船近代化実証船の概要をVTRに収録した。
  ・日 時 平成9年10月28日(火)13:00〜17:30
  ・場 所 広島県立産業技術交流センター(広島県情報プラザ)及び広島港宇品埠頭(1万トンバース)
  ・主 催 財シップ・アンド・オーシャン財団、運輸省中国運輸局
  ・後 援 日本財団、船舶整備公団(現:運輸施設整備事業団)、エヌケーケー物流(株)
  ・内 容 「近代化内航船の建造について」
          広島大学教授    小瀬 邦治(本委員会委員、作業部会長)
       「内航船近代化のための実証試験について」
          神戸商船大学教授  原   潔(本委員会委員長)
       「内航海運の現状と今後の展望について」
          大阪学院大学教授  国領 英雄  
  ・参加者 公開講演会 207名
       内航近代化実証船一般公開 213名
 [5] 報告書の作成
 平成8年度から2年間に亘って実施した本事業の内容と成果を報告書にとりまとめた。
■事業の成果

平成8年度は近代化設備の仕様について検討を行い、これに即した機器等を開発し、船舶へ装備した。実際の船舶の建造過程をとおして近代化設備についての検討・開発・装備を行うことによって、より現実的な研究を行うことができた。さらに、建造された内航近代化実証船に対し性能確認試験を行い、船舶としての性能、近代化設備の作動状況等を確認することができた。
 これに引き続いて平成9年度においては、内航近代化実証船が船主の業務計画に基づき運航されているので、この実運航をとおして近代化設備の運用を実証・評価、さらに今後の課題を抽出することを目標に実施した。この実船の就航実績を計測するために、測定システムを搭載し、長期にわたる就航データを収集するとともに、乗船調査や運航員からの聞き取り調査も実施し、内航船の就航実態を把握するための貴重なデータを蓄積することができた。これらの解析から以下のような成果を得ることができた。
 まず、統合操船システムは操船情報を使い易い形で集約的に提供し、操作も容易にすることから、安全性の向上と負担の軽減に資するとともに、運行者の技量への過度の依存を減らすことが期待できることが分かった。しかしながら、運行者がうまく慣れて使いこなすには再教育、再訓練の機会の提供とが必要になり、操作の容易化等の今後の改良の課題も分かった。
 また、機関室のMO化、モジュール化は建造と運用の両面で多大の効果があり、機器の信頼度の向上、分かりやすくて操作し易い構造と配置、操作の容易さに資するもので、負担の軽減に有益である。将来、標準化、量産化が進展すれば、この成果は一層顕著になるといえる。さらに採用したアクチュエータとジョイスティック操船システムも操作の容易化や運航の改善に有益であるし、居住区の快適化も運航員には好評であった。
 以上、内航近代化設備を搭載した実証船はブリッジ内の操船のワンマン化を現実的なものとし、安全性と経済性の両面で内航輸送の明るい未来に貢献すると期待され、更に効果的なものにするための改良すべき諸点も明らかになり、本事業は所期の成果を上げることができた。また、この成果は公開講演会と内航近代化実証船の一般公開を通じて幅広く社会に理解された。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION