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■事業の内容

近年、造船技術の進展を基盤として、経済性向上の要請に応じた船舶の機能の高度化並びに構造・型式の多様化が急速に進められてきたが、海上における人命の安全確保並びに海洋環境保護に対する国際的・社会的要請はますます厳しさを増しており、これに応えるためには、IMO(国際海事機関)を中心に船舶の構造・性能・設備や運航等の変遷に対応する適切な安全基準を国際的な合意に基づき、整備していくことが求められている。
  日本海沖で発生した「ナホトカ号」による船体折損による油流出事故は、船体の著しい衰耗による船体強度の低下が事故原因として報告されており、このような老朽船による海難事故の抜本的な再発防止策が緊急の課題となっている。
  そのためには、寄港国による外国船舶の監督・検査(ポートステートコントロール=PSC)を強化していくことも有効な対策と考えられるものの、検査官が老朽船であるかどうかを見極めるための簡易な判定基準や船舶登録国が適切な是正措置を講じるための判断基準は、まだ確立されていない。
  本調査研究では、板厚衰耗の統計計画及び構造破壊シミュレーション解析を行い、PSCにおける簡易な判定基準策定のための検討作業等を早急に実施し、IMO等の国際機関において諸基準の制定が進められる中、我が国の意見を充分に反映させるとともに、制定された国際基準の円滑な国内導入を図ることを目的に次のとおりの事業を実施した。
 [1] 老朽船安全対策の推進に関する調査研究
  [1] 板厚衰耗の統計調査
   a.板厚計測データの収集・整理
     NK船級タンカーのVLCC(15万DWT以上)及びSuez Max(8万〜15万DWT以上)のうち、ベルトゲージ(ある横断面における縦強度部材についての板厚計測)による計測記録のあるVLCC46隻の90計測記録から、32,266点、Suez Max62隻の125計測記録から、42,904点の計測データを得た。計測点の整理として、ベルトゲーシにおける計測対象部材について横断面の水平方向及び垂直方向に4分割し、各々を同一区分として整理した。これにより上甲板、船側外板・船底外板、縦通隔壁が4区分、それらの縦通材のウェブとフェイスも4区分となり、合計48区分に計測データを整理した。
   b.衰耗相関分析
     相関係数は、衰耗量と平均値及び最大値について、上甲板の第1区分(中央部)、上甲板の第3区分(中央と船側の中間部)を基準として、VLCC及びSuez Maxのそれぞれについて計算した。分析の結果、上甲板の計測結果から他部材の状態を推定することは、上甲板の縦通材についてはある程度可能と考えられるが、他の部材については、今後船齢の高い船舶についてとりまとめるなど、詳細な検討を行って判断する必要があると考えられた。
     一般的傾向としては、船外外板及び船外外板の縦通材のフェイス以外の部材については、上甲板の衰耗量よりかなり小さい数値を示すことがわかった。
  [2] 構造破壊シミュレーション解析
   a.構造破壊の要因分析
     衰耗時の溶接部の有効性を把握するため、衰耗及び作用荷重をパラメータとしたシミュレーションを実施し、衰耗量と溶接部の強度の関係を明らかにした。
     実船の板厚計測結果から上甲板の縦通材の上甲板側の局部的な衰耗量が、上甲板の衰耗量の約2倍であったこと等が明らかになったほか、縦通材の脱落に至る衰耗量の推定等を行った。
    さらに、縦通材の応力集中、上甲板構造部材の座屈、塑性崩壊解析を行った。
   b.構造破壊シュミレーション解析
     衰耗時の縦曲げ最終強度解析として、Suez Max 146,000DWTのシングルハルタンカーを対象として、Smith の方法を適用して計算コードHULSTを用いて簡易解析を実施し、船体横断面が縦曲げ荷重のもとで崩壊に至る挙動を明らかにした。また、板厚衰耗が縦曲げ最終強度に及ぼす影響を、パネルと防撓材の板厚衰耗量が等しいと仮定し、衰耗量及び衰耗場所を系統的に変化させた計算により明らかにした。次に、縦通材の板行衰耗量をパネルの2倍に設定し、また、衰耗量に応じて防撓材の脱落した状態を想定して、縦曲げ最終強度の簡易解析を実施した。
     さらに、衰耗時の船体破壊強度のシミュレーション解析として、シミュレーションによる計算を、VLCC、Suez Max、Handy の3船型で検討し、その間の船型については内挿で近似推定することとしているが、今回は、シミュレーション解析とSmith の方法を用いた解析とを比較するため、Suez Maxである146,000DWTのシングルハルタンカーの片舷、横隔壁の前後方向3トランススペースをモデル化し、衰耗量は全ての鋼板に対し0mm、4mmとしてシミュレーション解析を実施した。
   c.PSCにおける簡易な判定基準策定のための検討作業
     船体の健全性をチェックする指標として、船体縦強度の評価を旗国に義務付けただけでは、ナホトカ号のような事故の対策として不十分である。これには、PSCによるチェック体制も必要なことから、PSC時の板厚計測箇所を厚さ測定に関する指針を参考として検討を加えた。この結果、IMOでの検討案として、強制報告制度の概要とPSC時の指針をまとめ、提案文書案を検討するとともに、今後の検討課題を明らかにした。
   d.旗国検査における高度な判定基準策定のための検討作業
     第68回海上安全委員会(MSC68)へ提案した日本提案の全体像を再検討し、ナホトカ号の板厚計測結果から見た限界衰耗量及び衰耗時の船体許容縦曲げ強度基準についての一考察等の検討から、現在強制化されている検査強化プログラム(EPS)に従って実施された板厚計測結果を利用し、船体縦強度の評価を追加することが老朽船の構造を評価するうえで有効であるとの結論を得た。
     また、条約における船体の健全性のチェックに対する責任は第一義的に旗国にあることを考慮し、EPSの詳細を規定している総会決議A.744(18)の改正を求めて行くこととした。
■事業の成果

今年度の検討の結果、当面の旗国(FSI)小委員会に対する提出文書として「総会決議A.744(18)の改正案」及び「強制報告制度とPSC」を作成した。A.744(18)の改正は、先ず検討の進んだタンカーについて、板厚計測結果を利用した船体縦強度の評価方法に関する検査の追加を提案している。また、この提案は船体構造の専門家による検討が必要なことから設計・設備(DE)小委員会での検討も求めることとした。また、強制報告制度とPSCに関する提案は、強制化に必要な条約改正案文及び船体構造に係わるPSCガイドラインの検討案を提案することができた。これらは、IMO・FSI小委員会を中心に検討される。





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