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■事業の内容

1995年4月IMOにおいて、1994年9月バルト海でのエストニア号の事故を契機としてRORO旅客船に搭載される全ての救命いかだは、両面(両面に天幕を持つ構造)型か、又は自己復正型でなければならないことが提案された。
 我が国においては、両タイプともに実績のない構造であり、1998年施行に対処するため1996年から2年計画で基礎調査を行うとともに、必要な基本構造を調査研究し、性能改善を行い、実用化への基礎資料を得ることを事業の目的とし、次のとおり実施した。
 平成8年度は新型式救命いかだのタイプ選定の調査研究、並びに開発タイプとしていかだの基本要件(構造等)と基本性能の調査研究を行い、更に改正SOLAS条約の要件を具備した一次新型式救命いかだを試作し、各種試験を行った。平成9年度は我が国に最適なタイプとして実用化へ向けた二次新型式救命いかだを試作し、改正SOLAS条約適合救命いかだの基礎資料を得ることとした。
 また、内容としては、前年度は新型式救命いかだについてリバーシブル型及び自己復正型のそれぞれの型式について性能・試験基準案について整理・検討の後、異なる構造をもつ各種タイプの新型式救命いかだの試設計を行い、その中より性能、信頼性、経済性の面から総合的に優れていると思われる自己復正型タイプのものを選定し、一次試作品を製作し、自己復正型等の各種性能試験を実施し、性能評価と改良点の検討を行った。
 平成9年度は、前年度の調査結果に自動排水機構を取り入れ、更に、いかだ本体及びコンテナ強度の補強等の改良を加えた二次試作品を設計試作した。
 この試作品に対して、自己復正、自動排水、水中膨張、風速等の諸試験を実施し、復原力計算との比較検討、試験基準による評価を行った。
 [1] 基本構造の検討
   昨年度の調査研究結果及びIMOの動向をもとに、以下の方針で二次試作品の基本構造を検討した。
  [1] 自動排水機構の取り入れ
    自動排水機構に関してのIMOにおける要件、試験方法についてその内容を検討した結果、基本概念として、繰り返しの使用が想定されるため、電気、ガス圧等のエネルギーを利用する方法は除外することとした。即ち、LSAコードにおいて、同救命いかだの装備要件として自動排水機構を備えることとされているので、膨張時にのみ機能するものではなく、常時機能するものと考えられる。
    ただし、膨張式救命いかだの他の構造からみて、なにも手を加えずに永久に機能することまでは要求していないと考えられる。例えば係留試験において、海上で浮遊中に一日一回の気室圧力の調整(必要に応じて手動ふいごにより空気を気室に追加する)が認められており、その状況下で各部が正常に機能すればよいと考えられる。
    また、人員搭載時にも自動排水を要求するかどうかについては、上記LSAコード及びA.689改正案5.21試験方法のいずれにも人員が乗った状態との記述はなく、この場合、通常SOLAS条約の解釈では人員が乗っていない状態のみを考慮すれば良いと考える。
基本的には、床面を水面から上げることが必要と考えられ、床面を上下主気室の中間に位置させる方向で検討を開始した。具体的には、次の構造について検討した。
   a.床面を水面から上げる構造
     当初、床面内の水を完全に排水するためには床面を水面から上げることが必要と考えられ、上下2気室の中間等に床面を移動した構造を検討した。この構造であれば適当な位置に逆止弁式排水弁を設けることにより、完全な排水は期待できるが、反面、水面に接した床面が存在しないための問題が多々予想された。
     例えば、逆転膨張時に床面下部に多量の水が溜まること、漂流時の安定性が低下すること等。それらの問題点を解決する方法として、気室中間の床面に加え、最下面にもう一枚の床面を設置する等、様々な構造を検討したが総合的にいかだの主要性能を満足する構造は見いだせなかった。
   b.床面を従来どおり下部に設置する構造
     原点に帰り、従来の構造(床面を下部に設置)を生かしてどこまで自動排水が可能か調査するため、第一次予備試験を実施した。その結果、時間をかければ膨張の床でなくても内外の水位差ゼロになるまで排水すること、さらに、床気室を膨張させればほとんどの水が排水される可能性があることが分かった。
     次に、艤装品付近をドレインボックスとしてそこに水を集中させることにより残量を減らすことが可能かどうか、また、固定ベルトにより艤装品の位置を下げることが可能かを確認するために第二次予備試験を実施したが、排水弁の位置が必ずしも適当でなかったこと及び固定ベルトを締めることにより主気室のたわみが生じて床面がたるむこと等により、十分な排水状況の確認はできなかった。
     予備試験の過程で艤装品固定ベルトを有効にするには、主気室左右を凍結する外部スオートが必要となりそうなことと、また、構造の簡略化の観点から、できれば床面の膨張(自動膨張である必要が生じる)は避けたいとの方向が合意され、一つの案として、いかだ床面に外部補強気室状の補強気室を取り付ける構造(外部補強気室構造)が考え出された。
   c.外部補強気室構造
     床面を膨張させず、床面の下側に補強気室を取り付け、その気室の浮力により自動排水を可能とする構造を検討した。但し、漂流時の安定性を考慮して気室の直径(200mm程度)及び浮力を最小限とし、できるだけ床面を水面から離さない構造とすること、また浮遊時に床面を水平に保つためにテーパー形状とすることとした。この構造の場合、逆転膨張時の水の溜まりはほとんど無いと考えられる。
     但し、実用化に当たって、曳航時に気室取り付け部に力が加わることが予想されるため、補強等の検討が必要となる。また、いかだの曳航抵抗が増加する可能性が高いため、救助艇の曳航能力の再検討が必要になると考えられる。
  [2] 艤装品の位置固定について
    昨年度からの検討課題である艤装品の位置固定については、第二次予備試験において、主気室の左右間に渡した艤装品位置固定ベルトの効果を確認したが、外部補強気室構造なしの状態では主気室のたわみのため、ベルトが締め付けられず艤装品の重量を押さえ切れない状況が観察されたため、主気室の左右方向に外部補強気室の取り付けが必要と判断された。
  [3] コンテナについて
    今回製作するコンテナの要件の検討を行った。
   a.コンテナの強度を増加するため、構成するFRP材料の厚みを増やすと共に、補強リブを検討する。
   b.上下コンテナのはめ合わせ構造を改良すると共にシール紐を強化すにことで、投下着水時に開きにくい構造を検討する。
   c.救命いかだの格納寸法に合わせた大きさとする。
  [4] 実用品としての構造、その他
    実用品救命いかだとして、製作のしやすさ、製作のコスト、需要状況等を考慮した構造について検討した。
   a.天幕の構造
     天幕支柱の数を2本に減らすことについて検討したが、昨年度の状況からみて、現在の構造以上に支柱全体の剛性を減らすことは望ましくないと考えられ、3本のままで検討することとした。また、昨年度観察された天幕布のたるみについては、二次試作品の作成時に寸法調整をして可能な限りたるみをなくすことにした。
   b.大型いかだの構造
     本調査研究は、25人用の救命いかだを目標として実施しているが、50人用等の大型いかだの需要も将来考えられるため、その場合の構造について検討した。
    a 縦横比の見直し
      25人用の場合に縦横比を2前後として設計したが、このままの比率でスケールアップすると天幕の高さが必要以上に高くなる恐れがある。天幕の高さを適当な範囲に押さえるために縦横比を2より大きくして細長くする必要があると考える。
    b 剛性の再検討
      自己復正性能を保つためには全体の剛性の確保が必要であるが、スケールアップに伴い外部補強気室の追加等の剛性の再検討が必要となる。
    c 軽量化
      現在の50人用救命いかだは既に質量が約400kgあり、自己復正型にするための付加的要因のためさらに重くなる可能性が高い。いかだの取り扱い等を考慮すると現在の質量は限界に近いと思われるので、軽量化を考える必要がある。例えば、単位質量の軽いゴム布材料の使用、救命水の一部代替えとしての海水脱塩装置の積み付け等が考えられる。
   c.その他
     今回の救命いかだは水面でMESのプラットフォーム脇で膨張するタイプなのでフロートフリー機構も含め、作動索、引き寄せ索等の配置の検討が別途必要となる。
     また、今後、救命いかだは一度に一台ずつ投下可能な構造が要求されるので、2段積み等の場合、架台の構造変更が必要となると考えられる。
 [2] 二次試作品の設計、試作
  a.救命いかだ
    基本構造の検討結果をもとに、二次試作品を設計した。
  b.コンテナ
    コンテナについては、FRP板の厚さを従来の3mmから5mmへと増加させると共に補強リブを従来の2本から3本にふやして全体の強度を増加させた。また、落下時の衝撃による上下コンテナのずれを押さえるため、かみ合わせリブの高さをやや高くした。シール紐は、昨年度と同様の径4mmナイロン紐を使用することとするが、1本掛けを2本掛けにして強度を増加させることとした。シール紐の掛け方は、膨張時に常に決まった一方向から開くように、片側を3所、反対側 2ヶ所とした。
■事業の成果

[1] 昨年度は、まず、自己復正型及びリバーシブル型についてそれぞれの型式につきLSAコードA.689改正案に規定されている性能・試験基準案を整理・検討し、つぎに,これらの性能基準等を満足する各種基本構造の救命いかだ、即ち、リバーシブル型救命いかだ3タイプ、自己復正型1タイプにつき、それぞれの性能上の問題点、加工性、重量・サイズ、価格等につき検討比較した。その結果、在来の救命いかだの寸法、艤装品配置等に若干の変更を加えた自己復正型が最良と判断したので、これを一次試作品とし、非浸水時及び浸水時のそれぞれの場合につき復原性能を計算後、諸試験を実施した。その結果、いずれの場合においても自己復正力を保持する設計が可能であることを確認した。


 [2] 本年度は、一次試作品に自動排水機構を取り入れ、さらに、いかだ本体及びコンテナ強度の補強の改良を加えた二次試作品を設計製作した。自己復正、自動排水、水中膨張、風速等の諸試験等による性能評価試験を行った結果、排水弁の構造、コンテナのシール方法等を改善することにより、本タイプは25人用の救命いかだとして実用化可能であるとの結論を得た。





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