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知的障害者福祉研究報告書
平成8年度調査報告


第2章 国内調査

2 わが国の大規模施設の現状

愛知県心身障害者コロニー視察報告

訪問日: 平成8年10月23日(水)
参加者: 日本財団 古川係長
      テレビマンユニオン  池田
      福祉開発研究所 宮森、小林         (敬称略)

●視察行程



(1)はるひ台学園(精神薄弱児施設)の概要

●施設概要

・児童福祉法に基づき、18歳未満の精神薄弱児を入所させ、規則正しい生活の中で、日常の身辺処理能力を養うとともに、集団への参加をとおして社会性をつけさせ、将来独立自活に必要な知識.技能を収得することを目的とする。
・定員130名(重度100名 中軽度30名)
・昭和43年6月開所
・建物面積4,825?u
・鉄筋コンクリート平屋一部二階建

●愛知県心身障害者コロニー設立の背景

・昭和40年、有識者によるコロニー設立に関する国の懇談会(高崎コロニー設立を前提としたもの)が発足され、コロニーをつくろうという国の意識が固まってきた。
国は、各県に一つこのような大規模施設の設立を構想しているところがあり、そのような背景の中で、愛知県は他県に先駆けてコロニーをつくろうとした。
そして明治100年を記念して、昭和43年に愛知県コロニーの開設に至った。

・コロニー設立の背景には、重い人達は公的でやらなければならないし、医療機関をともなったセンター的なものでなければならないという考えがあった。
愛知県コロニーにおいても、一番最初に開所したのはこばと学園である。
次に開所したのが、はるひ台学園なのであるが、これも重度棟だけであった。
授産施設や職業訓練校は後からつくったものであり、その発想の中には重い人から公的にやらなければいけないという考え方が背景にあった。

●近年における児童施設の特性

〈児童施設の縮小化〉
・設立から30年を経て、コロニーの中で、一番変わらざるえなかったのは、児の施設であった。
養護学校が義務制となって、これまで障害による就学免除であったのが、障害をもっていても全員就学となり、地域から学校へ通えるようになったことで、児の施設は全国的に減っていった。

〈年齢超過〉
・児の施設は全国的に縮小化してきているのに対して、もう一方の問題として、者の施設がいっぱいということがある。
精神薄弱者約25万人のうち、施設に入所しているのが約8万人である。今度の障害者プランで、1万人分増やして、約9万人分になるが、者の施設がいっぱいで入れないという現象が、児の施設に波及している。

・児の施設は、それだけの需要がないままにあるならば、児から者になっても20歳を超えても、法の特例で、当分の間児の施設に入所していてもよいということが浸透しまって、児の施設における年齢超過が起こっている。

・はるひ台学園に在籍している人の平均年齢は、20歳3カ月程度である。児の施設は、児童福祉法では18歳未満であるが、この特例で20歳を超えるような平均年齢になっている。全国平均は18〜19歳である。

〈その他特性〉
・特にコロニーでは地域でやれない重い人達、重度や問題行動をもっている人達が増えてきている。
・最近もう一つ問題となってきているのは、要医療、感染症の人達が増えてきている。
MRSA、C型肝炎、B型肝炎、などの人が増えてきている。こういう人達は一般の病院ではいやがられてしまう。

●「こばと学園」(精神薄弱児施設)の概要

〈入所者の特性の変化〉
・昭和43年に開所したときには150人が中軽度、50人が重度の人という構成であった。
150人の中軽度の人は、その当時養護学校の義務制が施行される前で、地域で教育を受けられなかったことから、その人達の教育ということで150人を受けてきた。
その構成が現在は変わって、100人が重度、30人が中軽度という割合になっている。

・開所当初の150人の中軽度の人達は、全部退園して入れ替わっている。50人の重度の人はその大半が残っている。
児の施設の方が職員体制、介護体制が良く、他へ移ることができないそういう人達が増えてきている。

・定員は、開所当初の200人から途中で175人に減らし、今は130人となっている。
130人という規模はもちろん大きいが、今130人のうち、受け入れているのは120人である。
それでも当初から児の施設としてつくっているので、入所者の高年齢化により手狭になってきている。

〈入所希望の背景〉
・入所の希望理由はいろいろあるが、そのほとんどは家庭では世話ができないという養護性によるものである。
母親の病気、家庭の機能を果たしていないということで、施設に入らなければいけないという養護の問題と、もう一つは本人の問題として、問題行動であるとか家では見たいのだけれども家庭では障害が重いために見れないという理由がある。

・今問題になっているのは、本来の療育を目的とした取組がなされていないということが愛知県の施設長会議で話題になっている。
養護による人ばかり抱えているので、帰すことはできないことから沈殿してしまう。

〈「こばと学園」組織構成〉
・はるひ台学園は3つの係りのもと9つの棟から構成されている。
130人の人達を3つの係りで対応している。指導課のもとに指導第一、指導第二、指導第三がある。

・指導第一というのは、最重度の人と、問題行動をもっている人で40名の利用者に対して、職員は課長補佐を含めて、27名で構成している。
指導第二と指導第三は、重度と中軽度の混合棟である。定員はそれぞれ45名で、重度が30名、中軽度が15名という構成である。
指導第二は、児の施設に顕著に現れているのだが、女性の方が少ない。児の施設では特に男性の入所希望が多くて、女性が少ない。全体の利用者120名のうち、女性は30名で男性は90名である。
指導第二の利用者は女性30名を中心に、あと学齢児の15名で構成されているのに対して、職員は課長補佐以下17名で構成されている。
指導第三も定員45名である。指導第二に在籍するのが中学部までで、高等部から指導第三に移している。指導第三は年長児の男性の混合棟である。係長主査以下17名の職員で対応している。

〈職員配置〉
・職員は68名で、介護体制は国の基準よりも良い。重度棟は入所者40名に対して、職員27名で、20名を超える7人は、はるひ台学園、愛知県コロニー全体の努力で維持している。
中軽度の人がいる混合棟では4:1の職員配置となっている。

〈プログラム〉
・今は学校を卒業した人が70数名いて、全体のだいたい60%を占めている。
学校へ通っている人は45名程度である。

・学校を卒業した70数名の人達の日中の活動は、午前中と午後の昼間療育として、プログラムを組んでいる。5つのグループに分けてそれぞれ対応している。

・短期介護は、年間延べ400件をこなしている。
利用者は全県域にわたる。

〈施錠管理について〉
・昭和49年に死亡事故が相次ぎ、新聞紙上などでもたたかれた。それまでは鍵などはかけずに比較的オープンであったのだが、今は全体を施錠管理を行っている。
・考えられないような重い人が入ってきている。
シャツなど何でも飲み込んでしまう人。服を着ている感覚がいやだという自閉症の人がいて、服を着ていても破ってしまう。今は、居室などでは服を着ていなくても良いということで認めている。食事や散歩の時など、みんなと一緒になるときには局長を着ている。

〈第一係り(障害の重い人の様)〉
・棟内にある収納ボックスは、倒されないようになど職員が工夫して配置している。
テレビなどはアクリル版におおわれている。
視覚的なものと音の出るものが、そこにあることに慣れるようとするために配置している。
・利用者は各居室内にいる。各居室、棟内はそれぞれ施錠されており、日中はそこから順番に昼間療育に出る。
・120名中、常時薬を飲んでいるのは83名。薬の管理が非常に大事な業務になっている。

〈第二係り(女性と学齢児の混合棟)〉

・利用者は、棟内の廊下に出て作業などをしている。
居室は1部屋にだいたい5人程度。

●総括

〈問題行動について〉
・非常に重い人でも、早期からの療育で問題行動等が軽減できるという考えがあるが、現実的には非常に難しい問題がある。
自閉症でタオルなど、何でも飲み込んでしまう男性は嘔吐反応もできないほど障害が重い。その人は5、6歳頃は言葉もあった。それが、言葉もない、嘔吐反応もないほど低下してきている。

・強度行動障害事業は、早期からの療育で問題行動がなくなるという考え方からモデル事業を行っているが、一方では、退行してきている人達がいる。その辺が医学的にも解明されていない。
その人にどのような対応をするかというと、今のところ物理的な対応をするしかない。
集団から切り放して、個室に入れて、環境をごく制限して閉じこめてしまえば、ある意味では問題行動は完結する。そのようにしている人がここには何人かいる。集団に帰していくには、それでは問題は解決しないというジレンマがある。

・障害が少し軽くなってくると、無断外出や人間関係というように問題が外に広がってくる。知能程度が高いだけの問題行動が出てくる。

〈施錠管理について〉
・鍵がなくても、生活できる子にとっては被害を被っている状況である。
外に出て、自分の行動の安全を守ることを教えなければいけないし、その子がどこまで状況をわかっているかということを把握した上での施錠でなければいけないのだが、現在そこまでのプログラム、話し合いは行われていない。昔からの施錠管理をずっと引きずってきているままである。
何人かの子供たちは、職員の許可を得て、自由に外に出ている。

・限られたスタッフの中で、いなくなったら一斉に捜査するという現状の中では、施錠管理をやめることはなかなか難しい。
全国で一部でも施錠管理している施設は65%ある。問題行動のある人はいるけれども、施設の方針として鍵をかけていないという施設は15%程度。鍵をかけるようなら、重い人は入れないという施設が20%程度であった。大半の施設は、鍵を使っているのが現状としてある。

〈児童施設の将来的見通しについて〉
・児の施設の将来性として、県行政としてまず、どれくらいの人が施設を必要としているか数字をつかまなくてはいけない。
児の施設としての将来見通しとしては、児の施設としてのニーズ、者の施設の定員を今後整理し直して、児の年齢超過のものを者の施設へ移して、縮小した児の施設の地域の中での役割を再検討していくような方向性が求められる。
実際には者の施設が足りないということで、その方代わりをしている部分が大きい。

〈コロニーの将来的見通してについて〉
・大規模施設、コロニーの一つの特徴として、これだけの敷地の中で、これだけの機能を持って、必要とされるものもこの中での完結することがあげられる。
今地域の中でいろいろな関係機関が連携をとって、動くという考え方が進められているが、コロニーは必要なものがそこの1カ所にそろえられて、そこで生活が完結する生き方をしてきた。今は地域生活を進める時代だから、これからはそのようなコロニーはいらない、という理念で終わるのか、実際にはコロニーのような施設を必要とする人もいる、残しておくべきという論議があると思う。

・大規模施設が地域に対して何ができるのかということでいえば、コロニーにはいろんな職種の多くの職員がおり、また多くの機能を持っている、そういうことをどう地域に開放していくか、そういうことを含めて、コロニーの必要性について議論していく必要がある。
老齢化や、強度行動障害など地域でやっていくことが難しい人たちのために、コロニーのような機能を備えたところも必要ではないか。


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