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知的障害者福祉研究報告書
平成5年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


施設見学・ヒヤリング記録

渡辺勧持氏 ヒヤリング記録

渡辺勧持氏(愛知県コロニー発達障害研究所 社会福祉学部部長) No.2

●3−日本の知的障害者の住居サービス、とくに地域の住まいの展開について
1960年代からの30年間、入所施設の爆発的な急増がおこり、地域での知的障害者の居住サービスの機能は手つかずのまま空洞化してしまった。
居住施設は制度のうえでは、児童施設、成人の援護施設の後に、通勤寮、福祉ホーム、グループホームへとより地域へ近い形へと展開してきた。一方、地域では居住サービス以外の早期対応から学校教育、学校卒業後の就労の場まで多様なサポートがこの間に展開してきている。
(1)地域の住まい展開への2つの流れ
−入所施設から地域へ向かうニードと地域のなかで家族から自立するニード−
日本の居住サービスは、施設福祉として展開してきた、とこれまで述べてきた。しかし、統計上は見えないほどわずかではあるが、地域でともに暮らす、ことの意義を早期に認識し、その理念を人びとに伝えながら地域の中で少人数の住まいを30年をこえて実施してきた人びとがいる。そうした長い取り組みの後、1980年代近くになって地方自治体が生活寮等に補助を開始した。その後県レベルでの補助が約半数になった1989年に国は補助を開始した。
これまで生活寮・グループホーム等と呼ばれてきた少人数の住まいには2つの流れがあると思われる。
1つは入所施設から生活寮・グループホームへ移行する人のものである。施設で入所しているが、地域での援助体制があれば暮らすことができる人たちの受け皿としてのグループホームである。国の制度はこのニードに比較的対応した進め方をしており、入所施設がグループホームのバックアップ体制をとっている。
2つめは地域の中で早期対応から学校教育、卒業後の仕事をしてきた人たちが家族から独立し、おとなの住まいを必要とするときの生活寮・グループホームである。この人びとのニーズに比較的こたえているのは、国の補助金を受けずに独自に運営している生活寮等や、地方自治体の補助を受け入れている生活寮等である。これらの生活寮等は、これまで行われてきた地域ケアの活動の実績の延長として作られており、そのバックアップ体制も地域の特性にあわせたいろいろな工夫がなされている。たとえば、通所施設がバックアップになっていたり、横浜市のように在宅障害者援護協会のような組織をとおして親たちが独自に運営している場合もある。
この2つの流れは別のニードにたっており、それぞれのニードが展開し、地域生活を可能とするように相互の援助が地域の中で体系化していく必要がある。
しかしながら、現在の生活寮・グループホームの動態をみると、国のグループホームが毎年100カ所増大しつつあり、それまで国に先行して地方自治体で行われていた生活寮等およびその自発的な援助体側の広がりが縮小している傾向にある。それぞれの地域で住民や自治体、団体から展開した援助活動の発展としての地域の住まいは、今後の地域福祉の展開の要となるところであり、これからの活動に注目したい。
(2)地域の住まいが市町村レベルでサポートされる必要性
4〜5人の人が住む町の生活寮・グループホームは、国や県よりも市町村の水準で援助される必要度の高い福祉の課題である。
地域の中の生活寮・グループホーム等で住む場合、その援助の内容や必要度は、知的障害の程度によって一律に決まるものではなく、個人によってさまざまである。サービスを受ける側からすれば、このような個人の必要度に応じた援助が個人の選択や、自己決定の幅を広げ生活を豊かにしていく。
これらの援助には、緊急事態での電話相談が必要、夕食の準備だけ必要、相談者や友だちが必要などさまざまなものがあるが、その内容においても、必要の度合いについても多岐にわたり、それに対応して世話人の勤務態様や雇用の条件がかかわってくる。運営についても、住宅の家賃や土地の経費は都市部と農村部で極端な差異がある。それらの活動に必要な補助は、それぞれの地域で大幅に異なるはずである。
余暇活動、健康管理などでは地域の一般の人の社会資源を利用でき、またそれによって地域社会の人びとの理解、受け入れが促進されるのであるが、そうした地域の社会資源やネットワークもそれぞれの地域での対応が必要である。
実際、これらの地域活動の延長として作られた生活寮等では、国の補助を受けたグループホームとは活動の内容が異なり、生活訓練や緊急時の短期のあずかり、重度の障害者の受け入れなど、地域のニードに応じた幅の広い活動をしていることが調査でも明らかにされた。
地域の中でのこれまでの教育や就労のサービスへの広がりの延長として知的障害者の少人数の住まいがとりあげられ、市町村レベルで民間団体、自治体、あるいは第三者機関の取り組みが行われ、かつそれを奨励、援助する制度が行われることによって、はじめて入所施設への待機件数も減少し、入所施設から地域に安心して戻り、地域生活を行えるようになるであろう。

〈参考文献〉
1、 厚生省児童家庭局障害福祉課『精神薄弱者の地域生活援助』1991年
2、 妹尾 正:世界の精神薄弱福祉の概観、世界精神薄弱者愛護協会国際委員会編、9-11、1911年
3、 広瀬貴一他『障害者の地域生活援助方法の開発に関する研究』、厚生省心身障害研究班『心身障害児(者)の地域福祉体制の整備に関する総合的研究』平成3年度報告書、101−133、1991年
4、 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所社会福祉学部:『グループホーム・生活寮 1990年度全国調査報告書』1992年


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