日本財団 図書館


4.「行先の表示」についての考察

 

4.1法の原則の見直しについての考察

海交法第7条は、一定の船舶は、航路を出入し、または横断しようとするときは、信号によって行先を表示しなければならないことを定めた規定である。

海上衝突予防法(昭和52年7月1日法律第62号)が、原則として一般海域における多船間の関係を2船間(1船対1船)の航法関係に還元して航法を定めているのに対し、海交法では東京湾、伊勢湾、瀬戸内海といった輻輳海域に11の航路を設け、船舶交通の安全を図るために船舶の主要な流れまたは船舶交通流を尊重する立場をとっている。

船舶が航路の途中から航路外に出たり、航路の途中から航路へ入ったり、航路を横断することは、航路における船舶の交通流を乱すおそれがある。また航路の出入口から航路を出ようとする場合も、それまで一定の流れを形成してきた船舶交通が拡散することとなるため、航路における船舶交通に影響を及ぼすことがある。このような航行をする船舶が、あらかじめ自船の行動を周囲の船舶に前広に知らせることができれば、それを確認した船舶は、相手船の行動を予知することが可能となり、航路の安全の確保に有効である。このような観点から、行先の表示義務を規定し、運輸省令(海交法施行規則第6条)でその方法を定めている。

一方、東海防がまとめた「東京湾における海上交通安全法に基づく行先信号調査研究に関する報告書」(平成2年11月)その他の行先信号に関する改善要望等によれば、効果的な方法として湾内各行先港別の信号を設けるという案が提案されている。

この検討結果については一定の評価が得られるものの、主として次のような理由で改善が困難であると思われる。

 

? 法の趣旨から考察すると、法の対象として、適用海域において厳格に区別されている港則法が適用される港を用いることは、個々の法律における法的地平上の問題がある。

? 東京湾内では港の数が少ないために問題は少ないが、瀬戸内海では港の数も多く複雑になるので、行先の港名の頭文字で表示することに無理があり、他の航路との共通性を保つこともできない。

? 外国船のように当該海域をあまり航行しない船舶の船員や、通過船舶のように個々の港に依存しない船舶の船員等にとっては、港別の煩雑な信号は馴染みにくいと考えられ、予想している効果が期待できない側面もある。

 

換言すれば、行先港別の信号については、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の地理的事情に精通していることを前提にすれば一定の効果は期待できるものの、そうでないような場合には限界があることがわかる。

海交法は施行以来20数年を経過しており、海上衝突予防法の特別法として船員の間で慣熟されていることを考慮すれば、いたずらに法の原則を変更することは、かえって混乱を招くこととなり、法的安定性の側面からも問題がある。したがって、現行の信号の基本原則(たとえば、第1代表族は航路の途中からの出入や横断の場合、第2代表族は航路の出入口から

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION