はじめに
結核は現在、世界の公衆衛生上の問題で解決に緊急を要する課題のひとつです。毎年、世界で発生する結核患者は800万人、死亡者は300万人と推測され、その90%はアジアをはじめとする途上国で起こり、主に生産年齢を直撃し、経済にも影響を与える結果となっています。
世界規模で考えると、自国の問題としてばかりではなく、地域の一員として協力してこの問題に取り組んでいくことが求められています。
また、結核問題の解決には、効果のある結核対策の導入、そして適切な人材の配置による適切な運営が必要です。
近年、結核対策の一環として、世界保健機関(WHO)は、DOTS(ドッツ。直接監視下短期化学療法)と呼ばれる戦略を打ち出しました。文字どおり、短期化学療法によって処方された薬の服用を見守り、薬剤耐性を防ぎながら治癒に導くことはDOTSの重要な項目のひとつです。しかし、これに加えて、感染源となる塗抹陽性患者の治療に重点を置く、治療成績の記録・報告・評価を行う、薬剤供給制度を確立させる、国の支援を得るといった総括的な結核対策戦略なのです。
DOTSの採用により、患者の95%の治癒も可能であるという結果が示されており、今や結核問題を解決する唯一の方策として、世界でその導入に向けての模索が繰り広げられています。しかし、残念なことに、現実にはDOTSによって治療を行われている患者は今のところ10人に1人の割合にしか及びません。このような対策を、まず始めに広範囲に広めていくためには、地域的な啓蒙が効果的です。
本会は、平成5年、日本財団の援助をいただき、WHOと共催でアジア地域の結核対策担当者を東京に集め、「アジア太平洋結核対策推進会議」を開催し、当時の最新の結核対策パッケージを地域に普及することに努めました。
今回は、WHOのもとアジア西太平洋地域をとりまとめる役割を担うWPRO(WHO西太平洋地域事務局)と協力して、当該地域所属国の結核対策担当者を対象に、同様に最新の結核対策戦略であるDOTSと結核対策の運営を学ぶ研修会を開催いたしました。
参加者が経験を生かし、今後、自国においてDOTSを含む結核対策を積極的に行っていくことが期待されます。
平成10年3月
財団法人結核予防会
理事長 青木正和