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本事業は開発途上国公務員の人材育成に寄与する研修教材を作成することを目的とするものであるところ、この2年間の各国調査及びそれ以外の途上国での経験や途上国政府公務員と接した経験などを踏まえて、作成する研修教材の基本理念や内容について述べてみたい。

 

1 政府・公務員の役割

 

(1) 政府の役割

現在の世界の潮流は、「民間主導。小さな政府」で、ややもすると政府の役割を軽視しがちである。しかし、途上国や市場経済移行国においては、実際には政府がその国の経済を始め、社会や文化面においても主導的な役割を果たしているように思われる。特に民間セクターが未発達な国々においては、政府主導の開発体制という現状は必然の選択であると言わざるを得まい。

政府主導で経済・社会開発を進めてきた国の典型と言えば、今回調査したシンガポールであろう。強力・安定的な政治体制の下、資本・優秀な人材を意図的に政府に吸い上げ、そうして集めた資源を政府が定めた経済・社会開発プログラムに集中的に投下してきた。このような体制が今日のシンガポールの経済・社会発展に大きく寄与したことは疑う余地がなかろう。政府主導の開発体制がいかなる国においても最適で、導入可能な体制であるか否かについては議論があろうが、経済的・人的資源の乏しい途上国・市場経済移行国にとっては1つの選択肢であることは疑う余地がない。

(2) 公務員の役割

政府主導の開発体制を選択する場合には、当然のことながら政府の政策を立案し、政策の実行を担う公務員の役割が重要になる。そして、このような重要な役割を担う公務に優秀な人材を集め、高い士気と厳格な倫理観を保持することが必要となる。実際、シンガポールは上記の要件を満たす公務員集団を有していると言われている。

シンガポール政府がこうした公務員集団を構築できた理由として、世界一高いと言われる公務員の給与水準が挙げられることがある。しかし、今回の調査で実感したことだが、シンガポール公務員集団が醸成されてきたのは、決して世界一高いと言われる給与水準の故ではなく、公務主導で開発を進めるためには優秀で規律の高い公務員集団が不可欠であるとの国家的信念の下、リークアンユー前首相をシンボルとする公務員集団が率先垂範したことに対して、国民が公務員に対し信頼感を抱いたからである。

 

 

 

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