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3. CGによる海洋生物の可視化

近年,博物館や科学館での展示にCGが活用される事例が増えてきた。CGが手書きのパースや実写の映像にまさる理由を考察する。海洋生物を対象に考えると,例えば魚をCGで描いてみる。先ずモデリングを行う際に,魚の計測データを基に正確に形状を再現する。そして,魚の側面を撮った写真をスキャナーで読み込み,これを形状モデルにテクスチャーマッピングする。最後にポーズを決め,レンダリングして一枚のスチルが出来上がる(写真6)。

形状は本物と同一であり,ウロコの形や色,模様も写真を貼り付けているから本物そのものである。しかも,光学に基づいた影や陰影の計算をしているため,立体的に表現されている。これに対して,手書きのパースは形状も不完全であるし,色や模様も,本物とはほど遠い。しかもデザイナーの技量によって,描く品質が大きく異なる。

次に,実写の映像との比較を考える。例えば,絶滅寸前の魚の生態を映像化する場合,実写でその個体を撮ることは不可能に近い。もし撮ることができたとしても,大変なコストと時間がかかる。古い映像が残っていたとしても,それで子供達に十分リアルに生態を伝えることは難しい。しかしながらCGであれば,これまでに計測された魚のサイズ(例えば魚拓等)と写真があれば,その個体を再現できる。また,魚の泳ぎ方は,古い映像をトレースすることによってその特徴をつかみ,関数化して自在に泳がせることができる。関数化というのは,魚の動きを,胴体,背びれ,胸びれ,そして尾びれ等にSin関数を与えて,それらが相互に影響してリアルな動きを表現できるように,数式でアニメーションを設定することである(図4)。

この関数のパラメータを変えることで,群れや回遊,エサの保護等,様々な魚の泳ぎを再現することができる。もちろん,これらは,学者や研究者達が監修を行うことが必要である。だだし,そのチェックの程度は映像化する目的によって大きく異なる。泳ぎ方に関する学会向けの発表では,十分な精度が期待される。一方,“泳ぎ”そのものを見せることが目的ではない場合,例えば雄雌の個体差や年齢差,そして環境映像としての利用や釣り,飼育を楽しむゲームで等は,その“泳ぎ”が完璧でなくても,概ね間違っていなければよいだろう。なぜなら,その精度を上げるにはコストと時間を要し,目的を達成するための費用対効果を十分に考えてCGを活用すべきだからである。

以上のように,CGの活用法によって海洋生物の研究から教育,それにエンターテインメントまで幅広い分野での利用が拡まる。理想的には,海洋生物のCGデータベースを創ることにより,多くの人が安いコストでCGによる海洋生物を活用することが出来るだろう。

 

 

 

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