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8. 海洋底における熱水活動

海洋には海嶺があって,マントル物質がわき出ていることは知られている,一方,海洋水中の化学成分濃度で,粘土鉱物との平衡では説明できない部分を解決する可能性のある現象として,海洋底における熱水の湧出がある,高温の熱水,金属硫化物のチムニーの存在とスモークなど,深海底における地球の活動はまだ未知の部分も多い。

海洋底における熱水の湧出は,わが国では古くから知られている黒鉱(銅,鉛,亜鉛などの硫化鉱体)の生成を実地に示すものであろうが,この熱水の周辺に存在する多くの生命体は,酸素の存在しないところで生活する生物であって,いわゆる嫌気性の生物である,これが生命体として興味がもたれているのは,原始地球で,地球上に単体の酸素分子がない時代の地球の姿を示す一例ではないかということであって原始地球の生命の発生を示すものであるという点である。深海の潜水探査艇によって,これらの深海底熱水や滲出水の様子が明らかになりつつあり,海洋は生命の母としての役割を果していることになろう。

 

9. おわりに

地球科学,あるいは地球化学の立場から,海洋における種々の現象を眺めてみたが,生命を生んだのも海洋であり,今後人類を含めて,地球の生命体を救うのも海であると思われる。しかし,海は宇宙より知られているだろうか。海は見えないので,観測がおくれている。海を知ること,海を合理的に正しく利用することが今後の人類にとつて重要な課題である。

 

3-2-3 生物海洋学-これまでとこれから-

 

海洋学は「記載学」と「哲学」のどちらか?

1970年代に欧米では海洋学をめぐって,「記載学か?」あるいは「哲学か?」といったかなり真剣な議論があった。「記載学」というのは,英語では一般に「-graphy」という語尾がつき,「哲学」は「-logy」がつく。前者は,graphに語源があり,描く方法・形式,あるいはそれに関係ある「・・術」「・・学」「・・記述」などの意味が含まれている。一方,後者は,logosに語源があり,宇宙を支配し展開させる一定の調和・統一のある理性的法則が学問を貫いている。英語にすると,それぞれOceanographyとOceanologyとなる。旧ソ連を中心として,ヨーロッパの国々では哲学派がかなりを占め,Oceanologyという専門雑誌が数十年にもわたって旧ソ連から出版されている。記載学派は米国にかなり見られた。

哲学派は生物学,化学,物理学,地質学などと同じように,海洋学という学問分野が存在し,そこには海洋に特有の深遠な真理があると考えた。一方,記載学派は,海洋は場を提供しているだけで,海洋に特有な深遠な真理はなく,研究のしやすさから海洋学という分野をつくって,共に研究する仲間が集うのだと主張した。化学は突き詰めると物理学を基本にして成り立っているので,化学そのものには特有の深遠な真理はなく,突き詰めたときに物理学で説明できるとすれば,化学は哲学としての学問とはいえなくなる。生物学や地質学も,ある面では化学と似たような性質を持っている。そうはいっても化学や生物学では,物理学が対象とする物質の性質だけでは説明のしにくい現象が数多くあり,それらを統一的に捉える意味でもそれぞれの哲学を持った学問としての存在がある。たとえば,物理現象そのものの気象学が物理学とは別の独立した哲学を持った学問として存在しているのと似ている。

海洋学が記載学か哲学かの決着はつかないで現在にいたっているが,私はそれで良かったと思う。性急な決着はむしろつけるべきではない。人々が,海洋学の目指すところを深く考えたという点で,この議論は大いに役立ったし,海洋学の発展のためにも今後も考えて行くべきだと思う。

 

海洋学の教育・研究での位置づけ

海洋学の学問的性格を考えることは,欧米では海洋学を大学教育・研究でどこに位置づけるかで人々の大きな関心を呼んだ。哲学派は,大学の学部から海洋学をまとめて教育する必要性をとき,記載学派は海洋学は大学院と研究所でのみ扱うことを主張した。北米ではそれぞれのいきかたがとられた。哲学と考えたところでは,大学に海洋学部をつくり,学部と大学院の一貫した教育体制をつくった。ワシントン大学,テキサス農工大学,マイアミ大学などがその例である。そこでは学生は海洋を中心として,海洋での諸現象を理解するために必要な基礎的な勉強をすることになる。学生は,海に関しては筋が通っているが,物理,化学,生物,地質学,などといった既存の学問から眺めると,それぞれを少しづつ身につけていて,幅は広いが深みはない。それに対し,記載学と考えたところでは,海洋学は大学院で扱った。ブリテイッシュ・コロンビア大学,ハーバード大学,カリフォルニア大学などにみられる。学生は学部で物理学,生物学,化学などの勉強をしたあとで,大学院に入って初めて海洋学を学び,研究する。学生は,既存の学問は深く身につけているが,海洋に関する知識は乏しく,広さもない。結果からみれば,どちらに

 

 

 

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