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ない。われわれは台湾人なのに、彼は上海方言を使う映画にしたいようです。でも、これはほとんど“ミッション・インポシブル”なのです。

―――主人公のトニー・レオンは、上海語にやはり不安があるので、設定が変更されて、今は上海人ではなくなったようです。彼は広東から来て、たまたま上海に住んでいる人物として描かれてるらしいです。

陳:それは侯孝賢の古い手だな。

―――それに上海のロケーションは中国政府が許可しなかったから、一部は日本で撮ることさえ考えられているようですよ。大部分は台湾のセットで撮るようですが……。

陳:侯孝賢はいつも自分のスタイルで撮ります。彼だったらあなただって主役として配役できます。まったく問題ありません。というのもカメラが20フィートも先にあるんですから。私はある線では危険だと思います。彼の過去のプロジェクトでは、私はいつも結局はやり遂げるだろうという確信を持っていました。でも『海上花』に関しては、彼はいつかは完成させるだろうけれども、何を完成させるのか、ということだ。におうようなリアリティが侯孝賢の本当の力です。だから最近の彼の映画はあまり成功していないのだと思いますよ。彼の最近のすべての作品は時代遅れです。現代生活の真実を描いていません。彼はもう50歳をすぎて、彼の考える青春は30年前のものなのです。ですから、現代生活をスタイル化してしまっています。
しかし、これはすぐそれと分かってしまいます。『悲情城市』や『戯夢人生』とは違います。これらのフィルムでは、われわれは、すぐそれとはわかりません。『海上花』は、彼が想像した何かになる潜在能力を持ってはいます。しかし、彼は上海語で映画を撮りたかっただろうにと思います。最後に、自分はなんでこんな映画を作ってしまったのだろうと自問することになるでしょう。原作は純粋に上海のものでした。すべての会話は上海語で、とても繊細で長ったらしい100年前の上海の生活を猫いたものです。映画でもリアルに描く必要があると思います。日本人女優(羽田美智子)と3人の香港のスーパースター(卜ニー・レオン、ミシェル・リー、カリーナ・ラウ)と80%の台湾女優では、とっても奇妙な映画になるのではないでしょうか。現代の現実と100年前の上海の生活を探ることがたいへん困難になるでしょう。もっとも、彼は何か新たな発明を行うかもしれません。原作からではなく、彼自身の頭の中から。何か、とてもコスモポリタンな映画を見ることになるかもしれません。

―――90%以上はセットで撮られると聞いてますが、そのことはどう思いますか。

陳:それも私が危惧するところです。侯孝賢は、常にシーンを高いレベルで撮っていました。『悲情城市』の撮影中現場にいたので、そのときの彼の苦しみや心配が分かります。もしそのシーンがリアルでないと感じた時、彼は撮影できません。彼は新作で、この点を軽視しているのではないでしょうか。すべてのセットは台湾の技術者で作っています。これは非常に危険ではないか。なぜなら、彼らはそのバック・グランドの知識が欠けているからです。もし上海で撮影するなら少しは良くなるでしょう。しかし台湾では、確実に問題だとわかります。彼は中国人監督の成功をうらやましがっているのだと思います。張藝謀や陳凱歌などは、こういう時代劇ものに属する映画を撮って国際的に大成功を収めました。侯孝賢の最近の映画は観客動員の点でも、批評家の間でも、それほど高い評価を受けていません。彼は世界中の人々の関心をひきつけるエキゾチックなものを作る必要を感じているのかもしれません。

―――それに、良くも悪くも商業的になってきてますね。

陳:たぶん。より多くの資金が必要だからです。経費を食うようになり、『憂鬱な楽園』のようなとてもシンプルな映画を作ったとしても侯孝賢は2500万元くらいは必要です。私なら1000〜1500万元でできるのに。そして、もっと資金を得るためには、スーパースターが必要なのです。スーパースターを出すためには、国際市場で受け容れられるように、エキゾチックに作らなければなりません。彼は、このようなプレッシャーを感じていると思いますよ。多くの監督が、ただのプレッシャーから大作を創造してしまうのです。(1997, Nov, 台北にて)

 

写真・阿久津和宏(作中写真除く)

 

 

 

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