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1.湾岸戦争以後の米国の軍事戦略の変化と推移

 

戦略環境の変化は、脅威論を含む基本的軍事戦略とこれを裏付ける基本戦略の変化を意味している。その意味で、米国が現在推進している本格的な戦略、及び戦略再評価の作業も例外にはなりえず、特に1991年の湾岸戦争以降変化の度合いが大きくなっているのが実情である。冷戦当時、米国の軍事戦略はソ連の脅威と東西対立という大きな枠組みの中で構成されていただけに、核抑止と在来型の抑止戦略は比較的容易に結びついたと言っても過言ではない。勿論ベトナム戦争のように冷戦時の米国の軍事的経験を肯定的にのみ評価することはできないが、全般的な推移は、ソ連の脅威に備えなければならないという基本的な政策及び戦略目標から大きく離れることなく形成されてきたと指摘できる。

昨今の国際秩序が、第一次及び第二次世界大戦以後の秩序よりも、今世紀初頭の戦略環境により近く似通ったものであるという点を勘案すると、米国にとっては20世紀中で最も困難な戦略的選択をしなければならない時期にあると思われる。より具体的に見れば、ソ連の没落とともに唯一超大国の立地を固守するようになった米国は、冷戦後の世界秩序にふさわしい軍事と戦略を再構成しなければならない。戦略環境の変化、財政的赤字による支援減少、そして米国内の安保合意(security consensus)希薄化等の問題点を考慮した場合、それらは今後米国の軍事戦略に少なからぬ影響を与えることは明らかな事実である。したがって以前の積極的軍事介入(active military engagement)から相対的軍事介入(proportional military engagement)に転換しなければならないことは明白な事実である。問題はいかなる戦力で今後の安保環境に対応するのかということだ。このような作業を推進するにあたり、米国は何よりも新たな脅威評価基準を設定しなければならず、これを土台に新しい軍事戦略計画を立てるであろう。既に国防総省、合同参謀、陸、海、空軍、及び主要研究機関では、新しい軍事理論と戦略を構築している。国防総省では、今後の米軍の役割と任務(roles and missions)を中心にした案を公開したところである。だが、問題の核心は、米国が明白な戦略目標のない状況の中で、中長期戦略プランを推進するしかないという負担を抱えている点だ。これに関連して1980年代末から、また1990年代から本格的に強調されている中国の軍事力増強(特に南シナ海での中国の海軍力増大)計画と、日本の海上自衛隊による外洋型海軍力確保の動きが見られる。中国が軍事力を増大し日本が軍事を近代化する中、朝鮮戦争以後の東アジアの勢力バランスに中枢的な役割を担っていた米国は、東アジア内での漸進的な役割縮小と戦陣配置軍事力の減少を断行している。米国内の政治的流れを見ると、今後はより一層その傾向は深まり得るとの憂慮もある。

 

2.国防予算削減と軍事力削減

 

湾岸戦争以後、米軍が直面している最も明らかな趨勢は、予算削減と戦力改編である。

 

 

 

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