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最初は共通の関心であり、管轄権の問題を惹起しにくい災害対策等の環境から始めてはどうだろう。次に沿海国のEEZにおいて共通の環境基準を設定する。環境問題で相互協力が確立できたら、第三の局面は漁業資源の管理保存であろう。最後に深海底鉱物資源に関する取決めがある。こうした取決めすべてが、領土や境界の問題を棚上げにしたまま結ぶことができる。

残念ながらインドネシアの始めた対話は十分な成果をあげているとは言えない。非境界的解決が成功するためには参加国の相互信頼が不可欠である。

解決のインセンティブはまた別の観点からも高まっている。漁業資源の分割等を行うために、各々自国に都合の良い現状維持を行おうとする機運である。右は南シナ海において最も顕著であり、南沙群島における軍事施設建設や軍事的衝突がそれである。

仮にこれらの紛争が合意或いは第三者による解決を通じた境界画定により解決されるとしたら、その特徴は以下の通りであろう。第一に中国は南シナ海全域に対する主張を取り下げる、第二に群島基線による海域の囲い込みを止める、第三に居住に適さない岩による権利を主張しない、第四に岩にも満たない陸地を境界画定に利用しない、第五に地質及び地形的要素を境界画定から排除する、第六に沿海国の海岸線や島の地理を利用して境界を画定する、その際中間線原則を考慮すべきであるが、海岸線の長さ等にも配慮する、最後に当該海域が何れかの沿海国のEEZとなっても航行の自由等を保護し、沿岸国は資源につき主権的権利を行使すると同時に環境等を保護する責務を負う。

その結果複雑な境界画定が行われるだろう。しかし自然系は人為的な境界とは無縁であるから、沿海国はそれよりも寧ろ(境界画定によらない)協力的な制度を築こうとするかもしれない。いずれにせよ、それは時間のかかる話である。

 

5.結論

東アジア中部海域の複雑な状況に鑑み、沿海国は地域的或いは二国間取決めの前に、領土及び境界問題の解決を試みるかもしれない。逆にそれらの問題を棚上げして環境保護や資源保存を可能にする地域的解決の方がが好ましく思えるかもしれない。国連海洋法条約が発効した現在、解決のための枠組みが手近になり、自主的な紛争解決が促進されよう。しかし沿海国間の緊張は、近い将来の解決を疑わしいものにすることになる。

(了)

 

 

 

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