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CV-62両空母機動部隊の前に中国が手も足も出せなかった例は記憶に新しいところであるが、もう一つの例として次の事件を思い出して頂きたい。1992年春から翌年の春にかけて、沖縄に近い東シナ海において、中国のものと思われる不審船舶から付近を航行する船舶が銃撃や追跡を受け、停船を命ぜられて金品強奪などの被害を受ける事件が続発した。自国船への被害が続いたことに業を煮やしたロシア政府は、1993年春、不法行為に対して断固たる措置をとることを命じ、カーラKara型ミサイル巡洋艦を派遣した。その結果、日本から中国政府へ繰返し行われた抗議ではなかなか鎮まらなかった海賊行為がぴたりと鎮まった。海軍のプレゼンスが紛争あるいは不法行為を抑止する上でいかに効果があるかを示した見事な例である。

米海軍のプレゼンスは、冷戦時代を通じて今日までアジア・太平洋地域における紛争抑止と安定のためのバックボーンであり、今後も確固たるプレゼンスが継続されれば同様の機能が期待できることは間違いない。

米海軍だけが南シナ海を含む太平洋全般のシー・コントロールを確保しうる能力を有し、国家としてもアメリカは周辺のほとんどの諸国から信頼を受けている。アジア・太平洋地域にはさまざまな脅威が存在するが、アメリカが関わる限り脅威が顕在化することを有効に抑止できる。またこの地域の平和と安定を維持することはアメリカの利益とも合致する。

アメリカのアジア・太平洋地域における国益とは、これまでと同じく、?@グローバルな抑止を支える、?A政治的・経済的なアクセスを維持する、?Bこの地域に覇権を生じさせないようバランス・オブ・パワーを維持する、?C航海の自由を確保する、である。

この地域に前方展開していた米軍の兵力量も冷戦の終了とともに削減が続けられ、アメリカのアジア離れが心配されていたが、1996年3月、米国防総省が発表した報告書「東アジア太平洋地域におけるアメリカの安全保障政策」(通称ナイ・イニシアティブ)によって10万人のプレゼンスが継続されることとなった。今後の課題は、いかに米海軍のプレゼンスを確保し、活用するかにかかっているといえる。

南シナ海における領土紛争に対して、アメリカはこれまで中立的立場をとり、紛争当事者間の問題として巻き込まれることを慎重に避けてきたが、紛争の本質はアジア・太平洋地域の安定と航海の自由に関わる重要な問題であるという認識に立って地域内の諸国と協力して対応すべきである。

また、地域内諸国は、アメリカの存在の重要性を認識し、そのプレゼンスを確実なものにするための施策を推進する必要があろう。

(了)

 

 

 

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