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分権時代と地方税の拡充

-付加価値税を中心に―

持田 信樹(東京大学教授)

 

1. 問題の所在

 

付加価値税は、近年、租税収入として極めて重要な位置を占めている。しかし、それは中央政府の財政についていえる事実である。ブラジルの州付加価値税をはじめとするごく少数の例外をのぞくと、一般的にみて、付加価値税の課税権を掌握しているのは中央や連邦政府であるといって過言でない。よく知られているように中間段階の政府が独立に賦課する一般売上税といえば、アメリカやカナダの州が賦課している単段階の小売売上税にとどまる。

 

たしかにいくつかの連邦制国家において中間段階の政府が付加価値税を課税しないことの背景には憲法や法律による制約があることは事実である。またいわゆる「財政連邦主義」の伝統的な議論においても、政府機能に関するマスグレイブ流の三分割論との関わりで付加価値税は国税として位置づけられている注1。しかし中間段階の政府の独立税として付加価値税が存在しないことの根源的な理由は、国家間では可能となる租税境界の設定が一国内の地域間においては物理的に困難だからである注2。租税境界を設定できなければ、地域間の財・サービス取引は仕向地原則ではなく、原産地原則によって課税するしかない。

 

しかしながら、全国一律の税率でも強制しないかぎり、原産地原則にもとづく付加価値税は企業の経済活動、とくに立地の選択を撹乱してしまう。一国内では地域と地域との間での経済取引は自由であり、財政的な境界が閉じていないことが、地方独立税としての付加価値税の実施を制約するといいかえてもよい。後にみるように付加価値税の税収に州地方政府が参与する方法が分与税方式に限られていたのはこのためである。

 

注1税源配分に関する「財政連邦主義」からの接近として、Richard A.Musgrave,[1983],Who should tax,where,and what?,in Charles E.McLure,Jr.ed.,[1983],Tax assignment in federal countries,Center for Research on Federal Relations The Australian National University,Canberra.を参照。

注2この議論の代表的なものはVito,Tanzi,[1995]"Basic issues of Decentalization and Tax

Assignment,"in Ahamad,E.,G.Qiang and V.Tanzi eds,[1995],Reforming China's Public Finances,International Monetary Fund,Washington D.C.である。

 

 

 

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