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大都市行政制度に関する調査研究報告書

「大都市における環境行政」

 

は じ め に

「環境」は私たちだけでなく、たくさんの生物の生存の基盤である。このかけがえのない「環境」は、近年、年を追って、加速度的にその破壊の度を深めている。

地球的規模でみれば、地球温暖化が着々と進行しており、オゾンホールは年々拡大し、砂漠は拡大し、さらに、開発途上国においては、深刻な大気汚染や水質汚染等に見舞われている。

さらに都市部に目を向ければ、大気汚染や生活排水等による都市型公害の改善が著しく遅れているところもある。また、都市開発等の進行とともに、身近な自然環境は失われ、住民の「快適な環境」への要望が高まりつつある。これらの問題は、いずれも人間活動或いは経済活動によってもたらされたものであり、解決していくためには今日の我々の生活様式を根本から問い直していく必要がある。特に、それぞれの圏域の行政、経済、文化の中心であり、生産・消費活動の集中している大都市においては、これらの課題により積極的に対応することが求められている。

本報告書の総論は、委員会及び現地調査における各委員の意見、議論等をもとに取りまとめたものであるが、しかしながら、一口に大都市といっても環境行政の状況や抱える問題点は様々であると考えられることから、本報告書においては、現状と問題点の把握と、問題点解決のため各団体が採り得る施策オプションの紹介等にとどまらざるを得なかった。各団体においては、今後とも地域の実状や特性に合わせ、これらの施策オプションの効果的な組み合わせや実施などについて、より細かく検討していくことが求められよう。   

 

第1部 総論

I 環境問題の現状

1 環境問題の構造の変化

(1)環境問題のすそ野の広がり

高度成長期の我が国において、最も深刻な環境問題は、多数の人々の生命や健康に直接影響を与えるまでに悪化した産業公害問題であった。このような特定の大規模な発生源によってもたらされる公害問題は、社会的問題として大きな政治課題となった。また、公害問題に加えて、自然公園などにおける開発行為等による自然破壊も大きな社会問題となった。

このときの公害による被害に苦しむ人々の救済はなお続くものの、現在では、新たな激甚な問題が生じることはほぼない状況であるということができよう。

一方、昭和50年代に入って、旧来の産業公害に代わって、自動車排出ガスや生活排水などに起因する都市生活型公害や廃棄物の量の増大等が環境問題の中心になるとともに、国立公園等の貴重な自然環境の保全に加え、人々の身近な自然環境の保全の重要性が認識されるようになった。さらに、昭和60年代の終わりからは地球温暖化やオゾン層の破壊、森林の減少をはじめとする地球環境問題や野生生物の種の減少等生物多様性の保全の問題が、国境を越え世代を越えた影響

 

 

 

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