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政府システムの再生

―地方分権革命における目標管理

沼田 良(国立国会図書館主査)

 

I. 知命の年のシステム改革

日本国憲法と地方自治法が同日施行されてから、今月で50周年を迎えた。人間でいえば、天命を知る満50歳に達したことになる。

ただしこの間、憲法の定める「地方自治の本旨」が充分に実施されてきたとはいいがたい。戦時期の集権的な統制型政府システムが、戦後にも引き継がれて復興や高度成長を支え、現在に至っているからである。激動の半世紀を経たいま、地方分権改革によって「地方自治の本旨」を実現することが、あらためて国民的な課題のひとつになっているのではないだろうか。

わが国の政府システムは、機能不全の様相を深めているという印象が強い。相次ぐ行政幹部職員の不祥事、設置法の趣旨に反するかのような諸活動、随所に見られる拙劣な運営、組織的な非公開主義の横行、不正な公金支出や官官接待など、夕ガの緩みは単なる官僚バッシングでは済まないだろう。私には、問題の本質は、中央。地方を通じる統制型の政府システムが制度疲労の極にあることだと思えてならない。

システム疲労の端的な症例は、空前の借金財政である。日本の財政事情は、先進諸国のなかで最悪グループに属する。中央・地方をあわせた債務残高が国内総生産(GDP)の1年分にも匹敵し、改革がなければなお上昇すると予測されている。現在の財政破綻は、石油ショック以後の「財政危機」に倍する深刻さであり、昨年夏にOECD(経済協力開発機構)が「直ちに財政赤字の削減に着手すべきである」と警告したほどである。総理府の直近の世論調査においても、財政事情を主因として「日本は悪い方向に向かっている」とする回答が、過去最高の55%に達した。

破綻した財政運営の衝にあるのはもとより大蔵省であるが、同省のみならず、薬害問題などの厚生省をはじめとする各省庁の再編も急務である。既存の政府システムが融解しはじめ、すでに再生のための過程に入っていることは、誰の目にも明らかだろう。

 

?. 地方分権改革の諸相

こうした大規模な改革にあたっては、目標の管理が欠かせない。改革の目標を見据えていなければ、議論が思わぬ方向にずれたり、改革そのものが軌道をはずれてしまうからだ。とくに改革が長期にわたる場合には、政策環境の変化のなかで、何のための改革なのかということを常に問い直す必要がある。

そこであらためて、これまでに展開されてきた分権論議を3つの論点から整理し、改革の目標を再設定しておきたい。いわば地方分権改革のリオリエンテーリング(再度の方向づけ)である。3つの論点とは、タテの分権、ヨコの分権、そして中央行政府の再編である。

第1のタテの分権とは、垂直的な分権化とも呼ばれる。そのポイントは、事務権限の地方移譲と国の関与の縮小・廃上の2点である。事務権限の地方移譲とは、自治体の規模や性格をかえずに、国から地方へ、県から市町村へと権限や税財源を垂直的に移譲し、自治体の所管事項を量的に拡大しようという提案である。また、国の関与の縮小・廃止とは、自治体の裁量を広げて「自己決定権」を拡充しようという提案である。国の関与の代表例には、法令・通達にもとづく関与としての機関委任事務制度があり、財源移転にもとづく関与としての国庫補助金行政があるだろう。

こうしたタテの分権は、地方自治が憲法で保障された戦後改革の直後から繰り返し主張されてきた。だが、権限を手放したくない国が自治体の

 

 

 

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