た。その一環として海底マンガンノジュールの採鉱システムの開発が昭和57年から行われている。平成8年度に我が国においても海洋法が発効し,平成9年度に予定されている海洋実験を最後にプロジェクトを完結する予定である。当初からこの技術を深海域における石油・コバルトリッチクラストなどの海底鉱物資源採鉱法への応用が考えられている。実際のマンガンノジュールの採鉱は経済性の点で現状では考えられないにしても,稀少金属の確保という国家安全保障の観点からも重要であり,さらに我が国における深海開発技術の進展にとって大きな波及効果をもたらした。
最近のホットな話題としては「メタンハイドレード」がある。これをエネルギー対策と環境対策への両面から利用しようとするものである。メタンハイドレードとはメタンガスが低温・高圧の環境下において水分子の作る多面体構造に取り込まれてシャーベット状の固体物質になっているもので,シベリア,アラスカ,カナダなどの極地の石油・天然ガス田の永久凍土下層下部付近や水深300m以深の海底地層中に存在する。その総量は在来型の化石燃料資源を上回ると言われており,しかも我が国周辺の海域においても2.7兆立方メートルと,100年分の天然ガス使用量に匹敵する量が推定されている。
現在この海底地層中のメタンハイドレードを採集後の空間に地球温暖化の主要因子である炭酸ガスを注入し,ハイドレード化して地層を安定化するとともに,地球環境の保全を図るアイデアも検討されている。このように一時真剣に憂慮されたエネルギー危機はむしろ環境問題に置き換えられた感があり,採掘可能な化石燃料を人類が使い切ることは無いとも言われている。
一方21世紀にはほぼ確実に深刻な食料危機が来ると考えられている。1970年代に穀物価格が2倍になった際には陸地の農地が経済原理に従って拡大した。しかしその後これらの悪条件の農地は自然に淘汰・放棄され現在はもとの状態に戻っている。2010年には需給バランスの破壊によって,穀物価格は現在のさらに2倍に高騰すると予想されているが,もはや陸上の農地の拡大は望めないので,発展途上国を中心に飢餓の時代に入る。
米国,欧州連合もすでに減反政策を廃止または緩和している。我が国も陸上の農業政策を再検討する必要はもちろんあるが,海洋牧場など海洋食料資源開発技術の向上は急務であると言える。これが海洋工学の主要な課題となることは必然である。このための先行的な試みとして全国各地で「獲る漁業から作り育てる漁業へ」のキャッチフレーズのもとに海洋工学と水産学の連携によって,魚介類の増養殖法の開発が行われている。しかしこの事によって,海洋汚染などの問題を引き起こしていることも事実であり,将来は環境への負荷が小さい栽培漁業への道を歩むと思われる。このため,海洋工学分野からの貢献が要請されている。
3 海洋環境の調査・保全技術
人類が化石燃料を燃やして発生させる炭酸ガスは年間70億トンと言われている。その内約半分が大気中に残留して,炭酸ガス濃度を増加させつつあり,残りの大部分は海洋に吸収されていると考えられているが,はっきりしていない。自然の吸収能力の大きさによって,炭酸ガス排出可能量が決定される。したがって海洋に吸収される速度やメカニズムを正確に把握することが地球温暖化に対する今後の対策を立てるに当たって重要である。現在検討中の炭素税はあらゆる産業に大きな影響を与えるがその理論的根拠なしには世界的な合意に達することは困難であり,環境の予測技術は極めて大きな意味を持つ。
現在の地球環境問題の特徴は,従来の公害問題と比較すると時間的にも空間的にもスケールが大きい事にある。例えば異常気象・温暖化現象に見られるように,空間的には全地球的な問題であり,時間的にも少なくとも数十年先を見越した対策が必要であり,したがって数十年あるいは数百年先までの予測が可能でなければならない。そこで世界中の大気海洋の研究者は争って全地球的予測数学モデルを開発中である。当然のことながら熱・運動量・物質の大気海洋間の交換過程や大気海洋中の移動現象などの力学・化学・生物過程をモデルに正確に反映する必要がある。
ところがこのための海洋の計測データが大気に比べて極めて不足している。この事は海洋の計測手段が不足していることが最大の原因である。人間の生活している空間と深海底の圧力差は数百気圧にも及ぶし,海水中では電波を通信手段として使えないというハンディがある。良く言われるように,海洋調査は宇宙調査よりも困難であると言う根拠はここにある。しかしながら熱・運動量・物質の膨大な貯蔵庫であり,長期の現象にたいして支配的な影響を与える海洋の調査を抜きにしては地球環境問題の対策は一歩も先へ進めないところまで来ているっしたがって先端的で新しい海洋計測法の開発が必要である。
海洋中の流れ場の計測データは地球環境の予測法を