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推進力であり,重要な事は,目標「ビジョン」を明確にして,その達成に情報・通信技術を如何に活用するかである。情報化は手段であって目的ではない。新しい情報・通信技術による技術競争は,たとえ,使用する技術に差がなくても,その活用への戦略,戦術によることになるであろう。

日本造船業界は1990年代初頭から,産学官が一体となりシップ・アンド・オーシャン財団のご支援のもとに,造船CIMS(Computer Integrated Manufacturing system for Shipbuilding)プロジェクトを実施してきた。造船CIMSは,欧米の概念の後追いでない,将来への対応をストラテジーとして組み込んだ日本造船業の活力を復活させるための技術開発を目的とし,世界に先駆けて,造船の生産現場の「船を造る技術」をコンピュータで利用できる知識としてモデル化する技術を確立した。更に,造船技術の高度情報化を推進するためには,造船各社が自らの手で自らのシステムを簡便に構築しうる仕組みをシステムとして構築することが重要であると考えられた。
これがGPME(General Product Model Environment)プロジェクトの基本概念となり,造船CIMSで明確にされたプロダクトモデルのデータ構造を体系化し,各造船所固有のデータ構造を容易に追加・修正することを可能にする事により,造船各社が自らの設計・生産手順に対応したシステムを構築する事が出来るシステムを提案している。CPMEが提唱するような高度情報技術が一般的な技術となると,産業全体で共通利用できる情報技術については利用し,個別企業の情報技術については個別に開拓しうる環境を手にすることが出来る。従って,希望するシステムの構築はこれまでに比して容易な事になり,システムの構築技術の競争の時代から,システムの利用技術(戦略)の競争の時代へ変わるであろう。

造船の情報・通信技術に期待されることは

・一つには;船舶建造において究極の追求,即ち,あらゆる情報を駆使してシミュレーションを行い,引合,見積,受注,設計,調達,管理,工作,アフターサービスの全分野で無駄,無理を排除し,建造の自動化,無人化,装置化を推進する。

・二つには;オリジナルコンセプトの専用船や全く新しいコンセプトの大型浮体施設,機器等の創造,実現化の推進,即ち,造船のみならず,海運等他分野を含めた高度情報化により蓄積された技術の利用により創造的・知的生産性の向上を計る。

 

6 造船の将来技術

 

今後は,船を建造する技術と新しい使命の船を創造する技術を,追求して行く必要がある。21世紀に向けて,我々を取り巻く環境,諸条件は,労働問題,国際問題,環境問題,エネルギー問題等大きく変化しつつあり,これらの変化に柔軟に対応する必要がある。特に,地球環境問題に対しては,益々その規制が厳しくなり,その対応に真剣に取り組む事が必要となろう。海洋・大気汚染の防止策,安全確保の規制に対応すべき技術開発も今後の重要な課題であろう。つまり,21世紀の産業社会は,環境・安全・責任の時代となり,地球環境を守る事が命題となる。また,海上輸送に関連する分野でも変革が求められて来るであろう。具体的な変革について特筆は出来ぬが,情報化の進展による陸海の物流を統合したトータル物流システムの構築が必要になるであろう。

以上に挙げた我々を取り巻く環境,諸条件の変化に柔軟に対応するためには,船舶の設計・建造・運航・保守・廃棄の全ライフサイクルを考えた経済性を実現する必要があり,前節で述べたような高度情報技術に支えられた造船技術が重要となるであろう。今後は社会変革と環境問題に対する技術の優位性が競争力の源泉になる。造船に要求されるであろう,今後の主な技術ポイントを挙げてみる。

・海洋・大気汚染問題;NOX,C02などの大気排出削減策に対する技術開発。特にC02排出削減規制が厳しくなる場合の対策は難しい問題となる。石化燃料の使用削減または他のエネルーギー源(例えば水素,原子力等)に替わる機関の開発が必要。

・安全性の確保;環境破壊防止策の強化に伴い,船舶の運航に際しての安全の確保が重要な課題となり,運行管理の強化を計るISMコードの発効,あるいはポートステートコントロールによる検査の強化策に対応して行く技術開発。

運航支援機器とヒューマンファクターとの調和を計ったシステム開発。

運航モニター,検査機器等の開発。

・海上輸送の改革;今後世界における陸・海のトータル物流の合理化を追求する時,物流システムの改革により専用船等のあり方が変化するのではなかろうか。特に荷役システムへの変化が求められよう。その変化へ対応すべき柔軟な発想に

 

 

 

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