掛かっているわけですが,オイルショック以降の構造不況の中にあって,不況克服のために行われた努力の方向はそのまま21世紀に向けての努力の方向と一致すると思われますので,ここでレビューしてみたいと思います。
5.4 不況克服の努力と今後
1) 生産性向上の努力
昭和39年(1964年)にコンピューターによる工程管理が導入されて以来,コンピューターを用いた設計(CAD),建造(CAM)が多用されて生産効率の向上に貢献してきたことは,図26に示されたとおりで,企業内の配置転換やスリム化等の努力も相俟って図56に実線で示されるように造船業全体の生産性もオイルショック以前を上回って向上しています。またコストに占める工費の比率も図にハッチで示すように賃金の上昇をカバーして,ほぼ一定を保っており賃金の低い発展途上国に対しても競争力を維持しています。
1990年代に入るとさらに受注から設計建造までを一貫した情報化コンピューターシステムで処理するCIMS(Computer Integrated Manufacturing System)の開発がシップアンドオーシャン財団の共同研究プロジェクトとして進められ,94年にはその骨格となる部分が完成して,目下各社は既存のCAD,CAMシステムにそれを取り入れつつ独自の生産情報システムを作っています。さらに21世紀に向けて知識共有型情報システム(CALS,LINKS)の共同開発プログラムも計画されています。これらのシステムはブルーカラーのみならず事務系および技術系のホワイトカラーの生産性を上げる効果があり企業生産性の向上に貢献するものと期待されています。また最近はバーチュアルコーポレーションの構想も浮上する等,21世紀は情報化システムが主要な課題となることは間違いありません。
2) 需要開拓の努力
従来の造船の需要の他に新しい分野での需要を開拓しようとする努力が行われています。陸上部門,あるいは海洋開発部門への進出はその主要な例ですが,その他前述の洋上石油備蓄プロジェクトが6,000億円規模の大プロジェクトとして不況時の造船界を潤したのを始め,テクノスーパーライナー(TSL)プロジェクト,メガフロートプロジェクト等が官民協同のプロジェクトとして進められており,今後も海陸をリンクした輸送システムとして需要開拓の努力が続けられると思います。
3) “売れる船”の開発
船主にとって種々の意味で魅力のある船を創り,発注意欲を喚起しようとする努力も絶えずなされていますが,大別して次のような目標があります。
a) 高性能・高経済船
b) 信頼性,安全性の高い船
c) 環境にやさしい船
d) 安くて扱いやすい船
これらの努力は個々の企業は勿論,造船研究協会,シップアンドオーシャン財団,各種研究組合等で官民協同のプロジェクトとして続けられています。ここでは時間も無いので一々述べませんが,船の性能一つを取って見ても,ここ20年の間に,
船体重量 25%減
燃料消費量 40%減
乗組員数 10名減
等の成果が得られています。
結び
明治30年以来100年に亘る我が国の造船の発展の跡を振り返ってきましたが,我が国の社会,経済の基礎としての造船,海運業を確立するために努力された諸先輩の叡智と研鑽の上に今日があることを改めて痛感する思いであります。これらのご努力を引き継ぎ,発展させることが,21世紀に向けて我が国が造船世界一の座を守ってゆくための礎になるものと信じます。
もっとも,世界一と言っても単なる造船量のシェアでなく,付加価値の高い船や,ソフトや技術の有償供与等の付加価値を含めた売上高世界一を目指すべきでしょう。何れにせよ,昭和31年以来40年間に亘って世界一の座を保ってきたこと自体,大いに誇るべき