日本財団 図書館


農業開発もまた水資源を逼迫させる

東京大学名誉教授

川野 重任

 

水の利用なくして農業開発は一般に困難だが、逆にその水を利用した農業開発自体が水資源の逼迫をもたらしつつある事態のあることを注意しなければならない。

農薬、化学肥料の過剰投与が地下水汚染をもたらし、それが飲料水その他の形での水の利用制限となり、それだけ水資源のいわば逼迫をもたらしつつあるということである。

 

1 まず農薬の過剰投与による結果の一例

 

鹿児島県大島郡和泊町(沖永良部島)はいわゆる「永良部ユリ」やフリージアの名花生産によって知られる花の一大生産地。ここでの年間(平成5年)の農薬使用量は130トンで、全国平均の3倍にも及ぶという。花の商品価値維持のための害虫やウイルス防除のためだが、花は鑑賞作物、農薬の残留は消費者の間でもそれほど問題にならなかった。

しかし、飲用水をすべて地下水に依存している同町のこと、「農薬が地下水に浸透しているに違いない」と平成5年の専門家による調査の結果は「ダイアジノンが水道水の安全基準にまでは達していなかったもののその5分の3水準にまで達していた」とされ、さらにこの調査で「土壌内で100%分解されないことが実証された」とされた。特にユリの場合、収穫後ウイルス防除のため、集市場内に設けた大型水槽の殺菌剤の溶液の中に球根を浸す。ところがこの濃度の高い廃液がそのまま畑地にまかれ、それが地下水汚染へとつながったのである。そこで町は平成8年、ようやく国の補助で廃液処理施設を導入したが、その利用率はなお50%前後で、地下水汚染の不安はなお強く、ペットボトルの飲用水の売行きがなおとまらないという実態だという。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION