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2 東南アジア3大デルタにおける米政策と米生産の現況

 

タイ国は、石油ショックの影響を受けながらも、比較的順調な経済発展を遂げてきた。そして、とりわけ80年代後半以降、輸出主導の急速な経済成長を達成してきたのだが、最近年になり、労賃コストの急騰によりこれまで低賃金・低価格を武器に輸出を牽引してきた労働集約的産業に停滞の兆しが見え始め、産業構造の転換を余儀なくされている。このような構造転換の必要性は、工業部門に対して相対的に労働集約的な農業部門においてより強いものであった。

80年代後半以降における米生産の推移を表1によってみると、タイ国全体では過去10年間で作付面積が12%減少しているにもかかわらず、反収の増加により生産量は4.2%増加している。チャオプラヤ・デルタを中心とする中部タイについては、作付面積が20%近く減少している一方で反収の増加も著しいため、生産量は0.3%逆に増加している。これは、工業化・都市化により農地価格や労賃水準の上昇がより顕著な中部タイにおいて、稲作以外の用途に水田が転用される一方で、より良好な灌漑条件を背景に要素価格の変化に対応した機械化技術や生物・化学的技術進歩により土地生産性の向上が推進されたためである、と考えられる。

このような大きな変化が起きた80年代後半以降、稲作農業の構造変化を支援すべく米政策の面でもまた、ドラスチックな変化がみられた。1986年にはそれまでの、米の輸出税・ライスプレミアムが廃止され農業搾取型の政策から、稲作農民に対する農業協同組合銀行(BAAC)を通じた低利担保融資の増加など、農業保護型政策への転換が実施されたのである。

このように経済発展に対応して柔軟に構造変化を遂げてきたタイ稲作農業であるが、今後も同様の生産性向上を維持できるかというと必ずしも楽観できない。これは、賃金水準の上昇や農地転用価格の高騰に対して稲作部門のよりー層の構造改革が必要であるにもかかわらず、灌漑面積比率が低くかつ灌漑面積の拡大が期待でき

 

 

 

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