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総 括 21世紀のジレンマ

-人口・水・食料の連鎖(アジアの場合)-

日本大学人口研究所

名誉所長 黒田 俊夫

 

1 両刃の剣

 

科学・技術の進歩が人類の幸福にもたらした貢献は極めて大きい。宇宙開発や生命創造の技術などその進歩はとどまるところを知らない。しかし、進歩は一方通行ではない。逆行する反対の作用の発生も避けがたい。進歩の過程そのものが進歩を阻害し、人類の生存自体の危機をもたらす作用をももっている。科学・技術はいわば両刃の剣である。

1960年代から人口爆発と呼ばれた人類という生物の歴史上かつてなかった爆発的増加が始まった。しかし、医学をふくむ科学技術のめざましい進歩によって、一方では食糧生産の飛躍的増大を達成し、他方では死亡率の改善と共に出生力コントロールの技術の進歩によって増加抑制に成果を上げることによって、解決への曙光が見え始めたように思われた。

人間は生物である。水と食料なしでは生存は不可能である。にもかかわらず、水はいつでもどこでもほとんど無料で利用でき、食料も価格下落に農家が心配するほど生産を増大することができた時代は、終りを告げようとしている。高度な生活の頂点にある人間が、水と食物という生命の原点に直面しようとしている。高度の生活水準をもたらした経済成長は、有害の工場用水を排出し、激増する都市人口は生活の廃棄物で飲料用水を汚染され、地下用水も過剰消費のために枯渇の危機に瀕している。それだけではない。もっと重要なことは食料生産、特に農業用の必要な水は、工業都市人口の増大による水需要の圧力下に縮減を余儀なくされている。農地そのものも近代化の過程の中で縮小傾向が著しい。

 

 

 

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