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また、沢田7)も、船体着氷とは「冬季間北洋海域を航行する船舶が、荒天による波しぶきを船体の上部構造に浴び、それらが氷結することをいう」としている。

この船体着氷は、乾舷の減少、重心の上昇及び風圧を受ける側面積の増加をもたらして、船の復原性能を著しく低下させ、些細な突風にも転覆するといった悲惨な事故の直接原因となる。

日本難防止協会の報告書5)によれば、船体着氷は低温と荒天のために引き起こされる海水のしぶきの凍結現象であるとし、その発生はおおむね寒冷前線が通った後の寒冷内の海上に限られるとしている。

加藤8)によれば、「着氷という現象は、いうまでもなく、海水が船体に氷着する現象であるから、船がしぶきをあびたときのみに起こると考えてよい」としている。着氷させないためには、しぶきを上げないことが一番である。しぶきが上がり、気温が下がれば着氷すると従来より言われてきたことである。

一方、いったん付着した氷の成長に関して、世界気象機関(WMO)の技術指針では、 船体着氷の強度に影響を与える要因に気温と対船風速の他に水温の因子があることを指摘しているが、沢田9)は着氷が成長するための気象・海象条件の中で水温について次のように述べている。

着氷が発生するための水温条件については、現在(1973年)、国際的にも確たる定説はない。諸外の文献を総合すると、船舶の航行に支障を与えるほどの強い着氷は、おおむね水温5℃以下の冷たい海域に限られるとされている。しかし、1972年にカーフェリー“すずらん丸”が激しい着氷に見舞われたが、このときの水温が13〜14℃の暖水塊上であったことを考えると、着氷に果たす水温の影響は極めて小さいことが伺える。このことから、冬の北方海域では、20ノット以上の高速船はいつ、いかなる方向へ走ろうともしぶきを浴び、着氷はまず免れないであろうと結んでいる。

 

以上の文献を総合すると、着氷に至る原因を図3-1のようにまとめることができる。

太い四角で示した「波しぶき」と結んだ風向・風速・船速などは、波しぶきを発生させる原因を示している。「着氷」と結んだ気温などは、波しぶきが付着し、氷に変化するための因子を示している。

荒天時の波浪階級によって、船が波に衝突して海水のしぶきを上げることになる。

また、波浪階級とも関係するが船が停船状態であると、しぶきの発生が少ないことから、船速がしぶきの発生率に大きく関与する。

発生したしぶきは、風向・風速と船速との相対的な風向・風速によって飛び方が異なる。飛んだしぶきは、水滴となって船の甲板上に降り注ぎ、付着する。したがって、しぶきが付着する甲板上の構造物の配置や形状に左右され、船首甲板、ブリッジ前面と屋根、ブリッジ横の空間、通信設備などのしぶきのかかりやすい場所にある構造物は付着しやすいと言える。とりわけ、漁船はしぶきが発生しやすい船体構造をしている。

付着した「波しぶき」は、外気の気温に大きく左右されるが、付着媒体の温度にも左右される。パイプに温水を通して着氷を防ごうとする防止策は、付着媒体の温度を高めているが、外界の低温環境に熱を奪われて着氷防止効果が低くなり、着氷しだすと成長が始まり、ほとんど効果がなくなるものと思われる。風向・風速・船速の因子によって、着氷媒体及びしぶきの潜熱が奪われるから、これらの因子はしぶきの発生に関わると同時に、着氷の因子となりうる。

 

 

 

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