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3.5.5 各種養殖方法の比較

(1)典型的な養殖方法

典型的な養殖生産システムは、操業者が魚の育成環境をどのくらい管理できるかによって分類することが可能である。ここでは、管理の度合いの低いものから順に、従来の海面生簀方式、陸上掛け流し方式、陸上循環方式、陸上完全循環方式の4タイプに分けて比較してみる。

イ)海面生簀方式

現在、世界の海産魚生産の主流となっている方法で、日本でもイワシ等の安い餌料入手が容易であったこと、広い湾内海域があったことなどから近年急速に発展した。ハマチやマダイが代表的な魚種であり、サシミ用や寿司ネタ用としてこれら養殖魚の流通は大きなポジションを占めている。しかし、既に養殖業界自身が指摘しているように、海面養殖はいくつかの重要な問題に直面している。定点集中型の投餌養殖により、大量の有機物や無機物の負荷が湾内に集中し、自然浄化のメカニズムを損ねることが指摘されているし、赤潮やオイルの流出、さらに台風の影響により養成魚が大量死したという報道も後を絶たない。養殖場の溶存酸素量を下げないために、給餌制限を余儀なくされている所まで出ているし、最近最も深刻な問題となっているのが、魚病の蔓延である。養殖業者の一部には、収穫の30%〜60%を病気のために失っているとの話もある。魚病対策のために、これまで大量の抗生物質が使用されてきたが、耐性菌がどんどん現れ、養殖業者に経費負担を強いている。また、養殖場も開発しつくされ、発展の余地が狭まっていることも特徴である。

海面養殖のもう一つの問題点は、水温コントロールがきかないことである。そのため、立地条件が限定される上に養成期間が長くなってしまい、漁家経営を圧迫することもある。

ロ)陸上掛け流し方式

海水を陸上のタンクに汲み上げる掛け流し養殖法は、タンクに入る前に海水を濾過することが可能である点で、海面生簀方式よりも魚の管理ができる利点がある。また、取水地点の深さを変えたり、地下水を利用することで水温をある程度コントロールすることも可能である。しかし、大量の海水を汲み上げるためエネルギーコストがかかる上に、排泄物や残餌は結局は海に戻るために、海への汚濁負荷という点では海面生簀方式と同じ問題を抱える。

ハ)陸上循環方式

このシステムの代表として米国ノースカロライナ大学のTom Losordo博士によって開発されたEco-Recircシステムがあげられる。このシステムは有毒なアンモニアを無毒の硝酸に酸化するバイオフィルターを取り入れている。その硝酸を放出するために、一日に総水量の1〜3%にあたる海水を交換する必要があるが、その程度なら水温コントロールも可能である。また、純酸素もしくは濃縮酸素による酸素吸入も行うことで、魚の収容密度を10%程度にまで高めることができる。

排泄物や餌が崩れて水を汚す前に、それらが底に着いてから3分以内に固形物が除去されるのできれいな排水を保つことが可能である。ただし、Eco‐Recirc システムで海産魚を養殖する場合には、一定の海水を汲み上げる必要性から、海岸での立地という条件がつくことになる。

ニ)陸上閉鎖式再循環方式(完全循環方式)

このシステムの代表として国際養殖産業会が提案するUHIシステムがあげられる。この方式はEco‐Recircとかなり共通した点があるが、水の排出が全く必要ないところが異なる。つまり、この方式ならどこでも立地できる利点がある訳である。アンモニア等の硝化によって生成された硝酸を、嫌気性の細菌によって窒素ガスにまで変換させるのが本システムのポイントであるが、この方法では同じ水を何年も使うことができるのである。また、残餌ペレットを

 

 

 

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