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緒言

本論文は、シー・エンプレス号事故の際に流出した72,000t(1,900万ガロン)のフォーティーズ原油と480tの燃料重油(HFO)への対応について概説する。対応活動の効果の定量化が監視プログラムを通じて行われると同時に、英国運輸省沿岸警備隊の海洋汚染対策部(MPCU)からの要請に基づきAEA Technologyの国立環境技術センター(NETCEN)によって実施された。過去においては、研究者や対応に当たった者は、対応の初期段階で監視プログラムの活動を開始することができない、と示唆していた。MPCUがNETCENの監視チームを早期に動員したことは、油流出に効果的に対応するために事故の発生時点でリアルタイムに科学的測定を行うことの有効性を示す先例となった。

事故発生時点での意志決定は、流出したフォーティーズ原油がNETCENの北海の実地試験で大量に使ってきた原油であったことから、かなり容易であった。それゆえ我々は流出油の動向の予測及び別の対応法を利用した場合の可能性について強い確信を持つことができた。我々は、実地試験によりフォーティーズ原油が容易にエマルジョンを形成すること、又、何の処理も行わない場合にはこのエマルジョンが比較的長期にわたる持続性があること(Walker他1993年)を示した。他方、シー・エンプレス号油流出事故以前の実地試験で、フォーティーズ原油は分散処理剤及び解乳化剤によって処理可能であること(Lunel及びLewis 1993年;Wa1ker及びLunel 1995年;Lune吸びDavies1996年)がすでに示されていたため、分散処理剤による作業を行って成果を上げることに確信があった。

 

原油の動向についての概観

シー・エンプレス号がミルフォード・ヘブン港の桟橋に横付けされてから、約59,000tのフォーティーズ原油の積荷がテキサコ製油所へ移された。したがってここで調査の対象となった油は、海上へ流出した72,000tのフォーティーズ原油である。推定流出油量は、明らかに流出中一定ではなく、時間によって変化した。この節では2月29日の油の調査について述べる。この時点ではシー・エンプレス号が座礁してから2週間が経過しており、油のギラつきだけが海面に残っていて、大量に堆積した油の大半はすでに海岸から除去されていた。

 

蒸発-40%(35〜45%の範囲):

原油の軽質成分の蒸発は海水表面から油が除去される重要な過程の一つである。15以下の炭素原子を含む組成の炭化水素は、流出直後の2〜5時間のうちに蒸発してしまい、最も有毒な成分が大気中に拡散してしまうために海洋環境に対する海面残留油の重大な毒性(短期的)は低下する。事故直後の2週間にサンプルを集め、モデリングによる予測を行ったところ、原油体積の35%〜45%がすでに蒸発したことが分かった。

 

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