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3. 終の棲家(ついのすみか)を目指して

 

地域のなかでの自立生活を目指す者にとっては、グループホームは一つの選択肢にすぎず、また利用する者にとっても一つのステップにすぎません。しかしその一方で、知的障害者のなかには、自立生活を望まない人たちや希望しても難しい人たちが多くいることも事実です。むしろ以前なら入所施設の対象と思われていた人たちがどんどんグループホームで生活するようになってきている現状を見れば、その数は今後も増え続けていくのではないでしょうか。そのような人たちにとっては、グループホームは仮の住まいではありません。しかし終の棲家にふさわしい生活の質とはいかなるものか、「緑ヶ丘住宅」の建設はその答えを探る一つの実践であり、おそらく今後増えていくと思われる同様の趣旨のグループホームにとって、参考例として意味をもっていると思われます。

「緑ヶ丘住宅」の建設に先立ち、建設検討委員会がつくられました。委員会の構成メンバーは、法人理事長および障害者の地域生活に関わる職員や世話人経験をもつ職員、そして設計側として林章(愛知工業大学)、光野有次・鞍内喜与文(無限工房)が加わっていました。検討委員会の基本方針は、?@終の棲家にふさわしい生活の質の実現、?A居住者が一生住み続けることができる配慮、の2点に集約されます。とりわけ二番目の方針は、高齢化による障害の重度化あるいは車椅子を必要とするような、身体機能の低下によって住み続けることができない住まいは終の棲家とはいえない、という当時の理事長田島良昭氏の強い決意に基づくものです。

二番目の基本方針からすぐイメージできることはバリアフリー設計の必要性です。しかし建物全体をバリアフリーにすることは、西欧式の生活スタイルを程度の差はあれ導入せざるを得ません。しかし入居が予定されていた人たちは、畳部屋での伝統的な生活スタイルに慣れ親しんでおり、終の棲家にふさわしい生活の質の実現という点で問題があります。そこで考え出されたのが、伝統的な生活スタイルをベースとした上での多段階バリアフリー対応という設計方針です。

 

4. 多段階バリアフリー対応住宅

 

初期の段階は、八畳間(居室A)に想定される高齢化あるいは重複障害により車椅子を利用する障害者を主に念頭にしたものです。実際には現在も居室Aで生活する高齢の男性がイメージされています。彼は設計当時既に心身機能の低下が現れ、近い将来車椅子による生活になる可能性が予見されていました。居室Aは、車椅子生活を前提として長四畳の畳床部分と四畳の土間部分の組み合わせを原型とし、土間が必要のない段階では土間部分も畳床とするという方策をとりました。また畳部分と土間部分のそれぞれに出入り口を設けるだけでなく、いすれも設備まわり(台所・浴室・便所)および居間へのアクセスを保障して、どちらの生活スタイルにも対応できるようにしています。また居間では食卓を土間方向部分を開放した掘り炬燵(こたつ)風のしつらいとして、床座系*(ゆかざけい)の生活者と車椅子生活者が同じテーブルに着けるように考えました。しかしその一方で、彼は洋式便器に全くなじまず、和式の便器しか使えないため、必要となる前に洋式便器に慣れるための時間が必要だろうと判断されていました。また彼のほかにも足腰が弱って和式便器を使っている最中に後ろにひっくり返るといった事故も報告されていました。以上のことを勘案して便所を和式・洋式・バリアフリーの3ヶ所にしました。このレベルでの段階移行は、軽微な改築で対応することができます。さらに車椅子利用者が複数になった場合にも、改築の負担を少なくする配慮が施されています。

 

*床座系…畳に座って生活できる人

 

 

 

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