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緑ヶ丘住宅

 

林 章(愛知工業大学建築工学科 助教授)

 

1. コロニー雲仙の地域福祉戦略

 

社会福祉法人南高愛隣会、通称「コロニー雲仙」は、従来から積極的に知的障害者に対する地域福祉を進めてきたことで、全国的によく知られています。長崎県島原半島の北部に位置する瑞穂町には、「コロニー雲仙」の所有する広大な土地があり、入所施設、通勤寮、福祉工場、能力開発センター、地域生活支援センターなどの施設があるほか、敷地内およびその周辺地域で50棟を超えるグループホームを運営しています。

「コロニー雲仙」は、中軽度の障害者を主な対象とする一般就労、地域での自立した生活を目標とするライフサイクルの各段階を保障する諸施設を整備する一方で、高齢や重度の障害者など直接的な福祉支援を必要とする人たちに対して、グループホームでの生活を保障するだけでなく、乗馬療法を早くから取り入れるなど生活の質への視点をもって福祉サービスの充実を図ってきています。前者における特徴としては、社会福祉制度による諸施設だけでなく、労働省の障害者向けの諸制度をたくみにライフサイクルのステップに組み込んでいることを挙げることができるでしょう。能力開発センターは、我が国でも数少ない民営のセンターの一つであり、障害者の地域生活のための重要な施設として機能しています。また労働省の雇用促進住宅の制度を使ってグループホームを建設している点も注目されます。また地域の一般の住居で自立生活をおくる障害者への生活支援も、地域生活支援センターによって行われています。

 

2. コロニー雲仙のグループホームと緑ヶ丘住宅

 

「コロニー雲仙」が瑞穂町で運営するグループホームには、国のグループホーム制度によるもの23棟、無認可のグループホーム14棟、そして自立訓練・生活実習のための住まい15棟の3種類のものがあり、合計52棟となっています。とりわけ自立訓練・生活実習のための住まいは、法人が以前から独自に進めてきたもので、入所施設に在籍しながら、上記の目的のために地域で生活するプレグループホームとして位置づけられるものです。現在は、重度の障害者を主な対象としており、世話をする職員は住み込みの形態をとっています。また52棟のグループホームには、既存の住宅を賃借したものと、法人による新築住宅のいずれの所有形態も見られますが、新築の比率が他の法人例と比べて高いことも特徴の一つです。各グループホームは、できるかぎり地域に分散配置するよう考えられています。新築の場合、用地に関してはほとんどが借地です。ただしこの地域の農業中心の土地柄から一区画の面積が大きく、「緑ヶ丘住宅」の場合、同一敷地にさらに6棟のグループホームが建てられています。

「緑ヶ丘住宅」は、自立訓練・生活実習のための住まいとしてスタートしましたが、現在は国のグループホームとして運営されています。このグループホームの最大の特徴は、終の棲家として計画された点にあります。同様の趣旨で建てられたものに愛知県豊橋市のスイートビレッジ(バックアップ施設:岩崎通勤寮)があります。ただ後者が一般就労の障害者を対象としているのに対して、「緑ヶ丘住宅」は福祉就労の障害者を対象として計画されています。

 

 

 

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