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どうすれば豊かな暮しが作れるのか

―大阪市における地域生活援助の実際―

 

山川宗計(大阪市育成会地域生活支援センター所長)

 

1. はじめに―グループホームの大切なところ―

 

(1) 自分なりに楽しく生きる原点

知的に障害をもつ人たちのグループホームの数は、今では全国で2千か所に及ぶそうです。つい先ごろまで、彼らの生活の場は、閉ざされた施設かあるいは同じく閉ざされた家庭か、その二つのどちらかにしか無く、地域で互いに力を寄せ合って暮らすなんて思いもよらないことだったのに、ここ数年の間の急激な情勢の変化にはまったく驚いてしまいます。

しかし、ことさらに言うまでもないことですが、このグループホームという生活の形は、社会的に不利な障害をもつ人たちにとって、決して最高のものでも、また最後のものでもありません。それは、彼らが地域で暮らすための一つの手段であって、より正しく言えば、彼らが家庭や施設を離れて、地域社会に自分たちの生活の基盤を据える最初のステップであります。またそれは、彼らの生活を援助する者たちにとっても、地域社会に自分たちの援助の基盤を据える最初のステップであります。そこから、次の生活への展開が約束されるものでなければなりません。

そもそものねらいは、彼らがたとえ障害のゆえに守られる状態にあっても、それでも地域で「自分なりに楽しく生きる」生活の形を作り出すことにありました。グループホームは、そのための原点なのです。

 

(2) 「地域生活援助」の一端を担う場

さらにまた、グループホームはただ日常を「自分なりに楽しく生きる」だけのものではないでしょう。それは、たとえ不利な障害をもっていても、彼らが「生きていて良かった」と思えるような、自分なりの豊かな人生を作り上げるための原点でなければなりません。

このことを援助する側に立って考えれば、グループホームにおける日常生活援助は、ただそれだけに終わるものではなく、彼らの全人生を見通した援助の一環だと言えるでしょう。つまり、それは、就労や結婚や近隣や健康や余暇や人権や家族などに関するさまざまな「地域生活援助」につながる、大きな輪の中の一つの部分なのです。それだけが別に離れてあるのではありません。要となるこの視点を見失うと、グループホームは、従来の閉ざされた家庭や施設と何ら変わらないものになってしまいます。

また、彼らの地域生活の実態は、日常生活援助だけでどうにかなるほど単純な、また容易なものではないでしょう。買物や食事や洗濯や掃除や身辺や移動や金銭等々の部分的な課題の処理を超えた、全生活の根幹を組織的に支え通す体制を持たなければ、彼らの地域生活は守りきれないはずです。

以上のようなことを頭において、大阪市における「地域生活援助」の現況を報告させていただきます。

 

2. どのように支えるのか、その1

―大阪市の「地域生活援助」の試み―

 

(1) 大阪市の特異性

大阪市は元来、民間の雑多な人々による活動が根強く勢いのある都会です。ご多分にもれず、知的障害をもつ人たちへの「地域生活援助」活動も、早くから民間の有志によってさまざまに展開されていました。行政はそれをあと追いするように、いわばそのニーズに引き入れられるように、それゆえに的確かつ独特な施策を次々と打ち出してきました。

 

 

 

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