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横浜市のグループホーム

 

室津滋樹(横浜市グループホーム連絡会 会長)

 

1. 重い障害をもつ人の実際の暮し

 

日常多くの援助を必要とする重い障害をもつ人たちは、今まで、家族から独立し、まちの中で暮らすことは大変難しいと考えられていました。入所施設でしか生活できないといわれてきたこのような人たちが、グループホームの誕生によって、地域の中で長期にわたって生活する実践例が徐々にではありますが増えてきています。

重い障害をもっている人の中には、人との関わりの中で変化に適応する力が弱く、大きな集団の複雑な人間関係の中では混乱しやすく、自分を表現する力が思うように発揮できなかったりする人もいると思われます。このようなことから、グループホームという暮し方は、より障害が重い人たちにとって、生活の場として有効なものと言えるでしょう。

三浦八千代さんが、横浜市中区にあるグループホーム「本牧生活の家」に入居したのは平成3(1991)年の1月です。彼女が「本牧生活の家」で暮らすようになってから7年がたちました。

三浦さんの朝は、「起きたよ」という合図のコールボタンを押すことから始まります。三浦さんは起き上がったり、パジャマを着替えたり、車イスに乗り移ったり、トイレに行ったり、ご飯を食べたりすることを1人ではできません。どれをするのにも介助が必要です。ですから、朝目を覚ますと、介助をする人を呼ぶことから1日の活動が始まるのです。でも、「そろそろ起きて着替えよう」、このことは自分で決めます。

三浦さんが必要な援助は、こうした身辺介助だけではありません。三浦さんは数を数えたり、字を読んだり書いたりすることができません。ですから、お金を数えたり、何か買う時これで足りるかどうかを考えたりすることは難しいのです。でも、買いたいものは自分で決めます。その時に「お金が大丈夫かどうか」とお金のことを手伝ってくれる援助職員に尋ねます。買物をした時は一緒に行った人に買ったものと値段をメモしてもらい、あとで職員と家計簿をつけています。

三浦さんは、ある喫茶店で鳩時計を見つけて大変喜びました。そして「自分の部屋にも鳩時計を置きたい」と思い買いました。毎日三浦さんの部屋で、鳩時計が時を告げる声が聞こえます。時計の読めない三浦さんにとっては、鳩の鳴き声は時を知らせてくれる大切な音なのではないかと思います。

身体障害と知的障害をもつ三浦さんが、できるだけ自分の暮しを自分で決めながらグループホームで暮らすために、私達は次頁の表のような場面で援助をしています。

 

2. 横浜市のグループホーム

 

横浜市では現在、三浦さんのような知的障害と身体障害をあわせもつ重複障害の人たち、精神障害と身体障害をあわせもつ人たち、重い知的障害をもつ人たちなど、今まではまちの中で暮らし続けることが困難といわれてきた人たちが、実際にグループホームで暮らしています。

もちろん、このような多くの援助を、現在の国のグループホームの制度だけで提供することはとてもできません。横浜市には国に先がけて、生活に多くの援助が必要な入居者について補助金を加算する制度があり、更にグループホームの援助に加えて、生活保護の他人介護加算やホームヘルパーなどの他の制度をフルに活用し、また加えてボランティアの方々の協力によって、重い障害をもつ人たちの生活が可能になっているのです。

 

 

 

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