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解剖学実習を終えて

 

西山 潔

 

私は、入学した当時、先輩達が解剖学実習をしているとの話を聞いたりして少しの期待とそんなことが自分にできるのかという大きな不安を抱いていました。実際、小動物の解剖実験でもかなり後味の悪い思いをしてきました。

実習初日、とても恐縮した気持ちでおそるおそるご遺体にメスを入れました。しかし、実習を重ねていくうちに、不安などよりも人体の持つ精密で精巧な構造と機能性への驚きと尊敬の思いが大きくそれを上回るようになりました。複雑にからみ合う神経、脈管、内臓、諸感覚器、……。そしてそれらを包みこんでいる皮膚組織。それらはまるで小宇宙のようで、この地球上に生命が誕生してからの数十億年の進化の歴史の結晶でした。解剖学実習は、私にとって机上の理論であった医学の諸学科をより現実的なものにしてくれただけでなく、哲学的なものでさえあるとも感じさせてくれました。

解剖学実習を終えた今、人体の一つ一つの精巧で精密な構造と機能を、より深く学んでいこうという向学心と、こういう構造、機能を持って日々活動している自分、そして周囲の人間に対する尊敬の念が私の心に生まれました。解剖学実習に触れることのできた幸福感で一杯です。

 

 

 

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