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今井 進

お国が認める老人の仲間にはいった。といっても特段の感慨も沸かないが脚、腰の衰えは容赦がなく、踵あたりに根をはって時おり私に冬支度を促すようになりました。

「イヤアー驚いた、驚きました。気持ちは相変わらず性急に進んでもドッコイ体がついてきません。」

つい先達ってまで他人サマが交わすこの種の噺にひどく冷淡だった自分を秘かに顧みて、首をすっこめてみたりして反省するのです。

せめて己の恣意どおりに体が動く間になにか一つぐらいマシなことを、こんな気持ちが私を責め立てます。

かと申して、たくさんお金があるわけでもなく、特段の技術をもっているわけでもないから大変にむずかしいのです。

幸いにもいまの私にはナミといわれる程の平穏な日暮しと気持ちの通う家族があります。

穏やかにコトに臨める処世術もならって、人情話に小量でも泪をながすことだってできます。

あまりモノで恐縮だが、やくだつならと同意してくれた妻ともども献体登録をお願いして気持ちに張りがでて充実した晴れがましさに満足しています。

これぐらいのことしか私たちには出来ません。その時まで健康で過ごしたいと願っています。

まだ死なない、当分大丈夫と言う自負があります。なぜってボクにはまだ人を愛する活力があるから。

さて、ご縁があって今年も慰霊式に参列することができました。祭壇に向かうと志を同じくする御霊に目頭があつくなります。たまたま知人の姓名に接し、一入の感激でありました。大勢の人の祈りに包まれてこの充足したこころのお葬式、そうです、私は己れの葬送に参加していると理解しています。

今後、毎年参列したいと願っています。僭越で独断と偏見ながら私の生活の心情、熟年の「心、技、体」

「新」こころを鎮め素直に枯れてこそ
          暖炉で焚火のおもり役

「擬」わざと知恵は鷹のつめ
          お色気も程よく磨いて懐の中

「態」からだは鍛えず維持してこそぞ
          枯れ木に咲いた花をしらない

合掌

 

 

 

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