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死は身近に

澤畠芳枝

白菊会総会に二回出席したが、出る度に元気で長寿を保つように言われる。一人暮らしの私には、とてもやさしい会合に思え、その底に死というものがあることが、何か遠いことのようだった。

ところが、四月十六日、家の近くの交差点で交通事故にあってからは、身近なものとなった。幸い軽自動車であったのと、日頃ダンベル体操や、農作業で身体を鍛えていたのが効を奏したのか、打撲と内出血が左半身に広がっていただけだった。奇蹟的に頭は打っておらず、骨にも異常がなかった。年だからひびが入っているかもしれないと、ていねいに診て下さったが、全くきれいだった。大したものですねと医師に言われて嬉しく思った。

一ケ月半、通院十回で傷はきれいに癒ったが、精神的ショックは折々顔を出す。信号は青だって、横断歩道だって、事故のおこる時には起こる。その後は道を歩く時、今までよりずっと慎重になった。

車社会の今日、企業はどうして日本の道路事情に合わぬ大きな車を造るのか、ゆとりの生活などと言いながら、乗用車に二百粁も出せるエンジンをつけるのか、スピードの出し過ぎなどと憤慨する。車の事故を見る度に、運転者の無謀、不注意に腹が立ち、ひいては企業と政治の癒着まで論ずるようになった。

交通事故で血管が切れては、保存処理が出来ないというお話を思い出し、受けた傷のことを考えると、相手はともあれ、自己防衛をもっと考えなくてはと思った。

「お若いですね」などと言われると、ついついいい気になってハッスルしていたけれども、慎重さが欠けていたと、死を改めて考え自己反省している昨今である。

 

 

 

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