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奨励賞

 

観光・リゾート開発におけるマスタープランの役割に関する基礎的研究

〜群馬県草津町と新潟県湯沢町の発展過程の比較研究〜

中野 文彦

 

要 約

群馬県草津町と新潟県湯沢町は、ともに古くからの温泉リゾートでありスキーを軸に積極的な観光開発が行われてきた地域である。しかし、近年、湯沢町では、バブル景気でのリゾートマンション建設により様々な問題が生じた。こういった問題の要因として「観光地・リゾート地としてのマスタープランが描かれていなかったこと」にあったという指摘がなされている。一方、草津町は戦後から複数の「マスタープラン」を作成しており、それが現在の姿に大きく影響を与えていることが筆者らの研究によって明らかになっている。そこで、本論文は、マスタープランが存在した草津町とマスタープランがなかったといわれている湯沢町の「発展過程」「空間的展開」と、両町で作成された「マスタープラン」を比較することで、実際に「マスタープラン」がどのような面で有効に機能したのか、またはしなかったのかを明らかにし、今後どのような役割を果たしうるかを考察している。

研究結果の概略は次のようにまとめられる。

(1) 草津町の発展過程は、「高原部開発準備期」「高原部開発期」「都市形成期」「リゾート法による整備期」の4期に、また、湯沢町は、「行政による開発期」「民間による開発期」「高速交通体系の整備に伴う開発期」「リゾートブームによる開発期」の4期に、それぞれ分けて捉えられる。

(2) 草津町の空間的展開の特徴としては、まず道路整備が進み、次いで旅館・ホテル、ペンション、別荘地などが比較的秩序だって開発されたといえる。

一方、湯沢町は、スキー場開発が進むと、次の段階でその周辺に民宿・旅館が集中して立地するといった特徴がみられ、近年ではリゾートマンションの立地にも同様なパターンが現れている。

(3) 草津町と湯沢町の現在の状況の違いは、「マスタープラン」のレベルと熟成度によるところが大きいといえる。

草津町が比較的良好な環境を保っているのは、行政が作成したプランにおいて示された「基本方針」、さらには「ゾーニング」が高原部の開発などによって実現され、そのもとで「施設計画」などが行われたためである。すなわち、マクロな計画からミクロな計画へ、という流れが明確であったために、それをもとに町全体の発展の方向づけをしゾーニングなどで地区の特徴づけ、秩序ある開発が誘導できたということである。

一方、湯沢町ではプランは存在したものの、「基本方針」「ゾーニング」から個々の施設の提案に至るプロセスが欠如していたり不明確なものが多かったため、「施設計画」のみが実現し、スキー場開発に伴う民宿の過密化や、その後のリゾートマンションの乱開発を防ぎきれなかったといえよう。また、湯沢町の観光・リゾート開発は、外部資本に依るものが多いため、景気や高速交通体系といった外的な要因によって大きく左右されており、また実際にそれで潤ってきたという事実のために、開発が進んでいる間は安心しきり行政主導による開発や開発の誘導に目が向けられなかった。開発が次々と行われた「高速交通体系の整備に伴う開発期」にプランが作成されなかったこともこのことを裏づけている。さらに、研究結果を踏まえて、これからの観光・リゾート開発に対して次のような提言をしている。

開発による負のインパクトをできる限り押さえ、良好な観光地・リゾート地を形成するためには適正な開発速度・規模、環境の維持・育成を誘導するようなマスタープランが必要であり、今後行政側がそういった役割を積極的に担っていくようなシステムや能力開発が必要ではないかと考える。

 

 

 

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