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基調講演

 

作家深田祐介

 

1. はじめに

ご紹介にあずかりました深田です。

観光と交流というのは、私は非常に大事なものではないかと思っています。私はよく思うのですが、もし戦前ツアーがあったら太平洋戦争は起こらなかったのではないかという気がします。つまり現地を見ればアメリカの国力は恐るべきものがあることがわかるわけですから、当然国内でも対米戦争の空気は盛り上がらなかったのではないかと思うのです。

私は交流というのには相手を知ると、その間の戦争状態といいますか、紛争状態といいますか、そういうものは回避できると、危機管理に一番役に立つのは観光と交流であるというふうに思っています。

例えば今、具体的な例で申しますと、朝鮮半島におきましては韓国と北朝鮮が対立をしているわけです。しかし北朝鮮のほうは情報鎖国を敷いて一切外部の情報が入らないようにしている。北朝鮮の人は国外の事情、韓国の事情などは全く知らないわけです。

例えば韓国で学生デモがあったりする。こういうふうに韓国では学生のデモが盛んに起こっているぞというニュースだけは北朝鮮国内でもテレビで流していたのです。テレビで流すと、見ている連中がジーッと眺める。そうすると学生たちの服装が格好がいいじゃないかと、学生たちはかなりきちんとした格好をしているじゃないかと、それから後ろの店屋に品物が豊富じゃないかということになって疑惑を抱くので、最近はそれもしなくなってしまった。

それから、韓国の女子大生が北朝鮮に呼ばれて、つまり歓待を受けたことがあるわけです。韓国は思想の自由がありますから、いわば米軍の占領下にある韓国というものは、米軍に対する従属的な関係であって、そこへいくと北朝鮮は独立した国である。それに対する憧れのようなものがあるのです。朝鮮半島統一の憧れのようなものがあった。それで少なからぬシンパが、特に学生にいるわけです。それで韓国の女子大生が北朝鮮に呼ばれて歓待を受けて帰ってきた。帰ってきたらつかまった。それが何カ月か禁固になって、出てきた時の状況をテレビで北朝鮮が放映をした。そうしたら親兄弟が出てきて拍手して迎えたりしている。肩を叩いたりして慰めている。それを見てまた北朝鮮の国民は驚いた。北朝鮮の場合は一人が罪を犯したら、親兄弟はもちろん孫子に至るまで、大体3代にわたって全員が強制収容所送りなんです。つまり罪刑法定主義とか、そういうものはないわけですから、法律などはなきに等しいわけですから、そうすると一族を全部強制収容所に送ってしまう。そういう北朝鮮の実情からすると、これはどうもおかしいではないかと、北朝鮮に入った女子大生だけが罰せられて何カ月か禁固刑になって入っていたのだけれども、親類には何の影響もなかったんだというので、また北朝鮮社会が動揺する。だからそういうニュースもなるべく流さないということになっているのが今日の北朝鮮だと思います。ですから情報を逆に遮断していると、いかに危機が生まれるかということなんです。

逆に韓国のほうは、北朝鮮のことは大体わかっている。今は亡命者が非常に多いで

 

 

 

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