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第1章 人材育成と人事管理の連携の必要性

 

本章においては、地方公共団体が置かれている環境の変化を踏まえ、人材育成と人事管理の連携の必要性について整理することとする。

 

1 地方分権の進展

 

平成7年7月に施行された地方分権推進法に基づき設置された地方分権推進委員会では、明治期以来の中央集権型行政システムを新しい地方分権型システムに変革すべく、精力的な検討作業が進められ、機関委任事務制度の廃止を中心とした平成8年12月の第1次勧告からはじまり、平成9年10月までに4次にわたる勧告が内閣総理大臣に対して提出されたところである。政府は、これを最大限に尊重して、第142回通常国会の会期中に、地方分権推進計画を作成することとされており、地方分権はまさに実行の段階に至っているといえる。

わが国の行政はこれまで「国-都道府県―市町村」といった縦の関係で制度が構築され運営されてきており、地方公共団体においては、その施策の推進に当たっては多くの場合、国の制定した制度や方針に制約され、地域の実情を踏まえた的確な対応ができない場合があることがかねてから指摘されてきたところである。

しかしながら、今後、地方分権が進展すれば、国と地方公共団体の役割分担が明確化され、地域のことについてはその地域の地方公共団体が、自らの権限に基づいて決定し、実行していくことが基本となり、地方公共団体にとっては、その役割が増大するとともに、担うべき責任の内容もこれまでとは質的に異なるものとなる。

すなわち、地方公共団体は、地域住民のニーズを的確に踏まえ将来を見据えた施策を、国に頼っていくことなく、自らの力で構築し、実施していくという責任を名実ともに負っていくことになり、今、地方公共団体に求められていることは、このような新しい時代に対応できるように、自律性を持った団体としてその責任を的確に果たしうる行政体制を整備・確立していくことである。

このように地方分権の進展に伴い、地方公共団体の職員一人ひとりが、全体の奉仕者であることを自覚し、意欲を持って職務に取り組むことはもとより、住民に身近な行政サービスの担い手としての心構えや効率的な行政運営を行うための経営感覚を身につけることが一層求められており、そのため、各地方公共団体においては、時代の変化に対応する人材の育成を積極的に推進していくことがますます重要になってきている。

 

2 行財政改革の推進

 

国・地方を合わせた長期債務が476兆円(平成9年度末)に達する危機的な財政状況に見られるように、我が国の行財政環境は極めて厳しい状況にある。

このため、国においては、「財政構造改革の推進について」(平成9年6月3日閣議決定)に基づき、財政構造改革を強力に推進することとしているほか、中央省庁の抜本的な再編にも取り組むなど、行財政改革に対する積極的な取組を進めているところである。

地方公共団体においては、これまでも積極的に行政改革の推進に努めてきたところであるが、こうした状況の推移を改めて認識の上、自らの責任において更なる改革を進め、地方自治の新時代にふさわしい体質の強化を図っていくことが必要である。

このため、自治省としても、平成9年11月に「地方自治・新時代に対応した地方公共団体の行政改革推進のための指針」を策定、通知し、平成10年末までのできるだけ早い時期に行革大綱を見直し、定員管理をはじめとする数値目標の設定等取組内容の充実を図るとともに、これを住民に公表しながら、一層の行政改革の推進に努めることを強く要請しているところである。

行政改革を推進していくためには、地方自治法第一条の基本に立ち返り、民主的かつ能率的な行政を目指さなければならないが、民主的な行政という側面では地方分権の進展で述べたような人材が同様に必要となってこよう。

また、能率的な行政という側面では、とかく非能率的であるとの指摘がなされがちな行政のあり方を変えていくに足るパワーを有し、住民に身近な行政サービスの担い手としての心構えや効率的な行政運営を行うための経営感覚やコスト意識を身につけた人材が必要とされる。

そこで、そのような人材の育成を推し進めることと共に、能率的な行政運営のためには、職員の能力を高めるための人事管理が必要である。

 

3 人材育成と人事管理の連携の必要性

 

以上のように、分権の推進及び行政改革の推進を図っていくためには、人材育成と人事管理の必要性はますます増している。さらに、人事管理は人材育成の極めて有効な手段である一方、各種の人材育成方策を通じて開発された能力が正当に評価され、その能力を十分発揮できるような人事が行われることが重要であり、人材育成と人事管理の連携は不可欠である。

特に今後、限られた職員の能力を最大限に活用し、地方行政をより効率的・効果的なものむとしていくためには、職員の意向を的確に把握した上で、能力・業績・意向をより重視した人事管理に転換していく必要があり、職員の任用、研修や勤務評定など個々の人事制度を有機的に結びつけ、総合的な人材育成を推進していく必要がある。

しかしながら、人材育成の成果を任用等の人事管理に活かしたり、逆に勤務評定などの人事管理の結果を研修に活かしたりといったような人材育成と人事管理との連携は、現実的には、必ずしも十分に行われてはいないのではないかと考えられる。

そこで、次章においては、アンケート結果により、地方公共団体の人材育成と人事管理の取り組みがどの程度行われているのか、また、意識した連携がとられているのかといった現状について確認し、現状における課題について整理することにする。

 

 

 

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