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■「ロンドン・シンフォニエッタとともに」企画について

 

新しい音楽教育を考える会代表 坪能 由紀子

(高知大学教授・東京芸術大学講師)

 

「新しい音楽教育を考える会」とロンドン・シンフォニエッタとの協同プロジェクトは今回で3回目になります。いずれも、参加者とロンドン・シンフォニエッタの音楽の専門家が協力しながら自分たち自身の音楽をつくり上げるという、「音楽づくり」のワークショップを中核としています。

第1回目は、日本現代音楽協会主催の「音楽?U」として、ロンドン・シンフォニエッタから4人の音楽家を招き、1994年10月に約1週間をかけて行われました。彼らは音楽教師や音楽家のための音楽づくりのワークショップを開き、また小学校、中学校、高校へと赴いて、生徒たちと協同で新しい音楽をつくり上げていきました。その結果は、最終日のコンサートで演奏されたのです。こうした形の専門家とのワークショップは、日本で最初のものだったと思われます。

2回目は1996年3月になります。前回のワークショップに参加した学校の教師たちの多くが、音楽づくりの体験をさらに深めるために、ロンドンにわたって再びロンドン・シンフォニエッタとワークショップを行ったのです。ロンドンではシンフォニエッタだけでなく、サウス・バンク・センター(ロンドンにあるイギリスを代表する文化施設)や、ギルドホール・スクール(音楽の専門学校)との関係者との交流を深めることもできました。そしてインドネシアのガムランやアフリカの音楽をもとにした音楽づくり、さらにピエール・ブーレーズの「ル・マルトー・サン・メトル」という作品にもとづく音楽づくりなどが行われました。

第3回目になる今回は、越谷コミュニティセンターで行われることになりました。それはこのロンドン・シンフォニエッタとの協同プロジェクトに新たな意味を付与するものであろうと思われます。

越谷コミュニティセンターでは今夏、新たに優れた若手演奏家で構成される「サンシティ・アンサンブル」を発足させました。このアンサンブルは、クラシック音楽だけではなく、ボップスや現代音楽まで幅広いレパートリーを持っています。さらにこのアンサンブルは、演奏会で演奏するたけではなく、多くの人々に音楽の面白さを理解してもらうために、一人ひとりがワークショップ・リーダーとしての力量を持ちたいと考えています。このアンサンブルのためにロンドン・シンフォニエッタの音楽家たちが、今までイギリスで行ってきた音楽づくりのワークショップの精神や技術をそのまま伝えてくれることになっています。今までの日本にはなかった若い演奏家たちの誕生のために、このプロジェクトは大きな貢献をすることになるでしよう。

また越谷コミュニティセンターは近年、市民参加のさまざまな催しを多数開催していることで、広く知られるようになってきました。そんなセンターでまた一つ、参加者とともに音楽をつくるという創造的なプロジェクトが、それも外国の音楽家との協同で行われようとしていることにも、大きな意味があると思われます。

その他にも今回のプロジェクトでは、日本の伝統楽器を使っての音楽づくりが実現するという画期的な試みが行われます。現代邦楽研究所の研究科のメンバーと、イギリスを代表する音楽家たちとが出会うことによって、異なった二つのジャンルの音楽が互いに火花を散らしながら新しい世界をつくり上げていくことも、このプロジェクトの醍醐味の一つとなりましょう。

ロンドンからやってくる音楽家の人たち、日本全国から集まってきてくださる音楽の先生方、音楽を愛好する方々、地元越ヶ谷小学校と大宮市立日進中学校の子どもたち、そんな音楽を愛する人々がサンシティホールにつどい、音楽を創造するよろこびがホールにあふれることを願ってやみません。

 

 

 

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