日本財団 図書館


するのが簡単なことではないと思い、短期間、海外にいる子女に会いに行くことはあるが、海外に定住する者は非常に少ない。住み慣れた国内で暮らすのを選ぶ人がほとんどである。

最近ようやく社区サービスの領域で「留守役老人」のことが議論され始め、彼らを含む高齢者の必要に応じて特殊なサービス(例えば、食事や物を家に届いたり、訪問修理をしたり、孫の世話を協力したりする)を行う用意がなされ、また、敬老院と異なり、「留守役老人」に相応しい高齢者マンションの建設も議論されるようになってきた。

 

上海市の農村部では、市区部と違った意味の「留守役老人」の現象が存在している。農村「留守役老人」の現れは、今日になって突然に出てきた問題ではなく、昔から存在し、子どもも多かったため件数が少なかったから、人々の注意を引かなかっただけである。農村「留守役老人」の現象は主に次の要因を上げられる。(1)子女の婚姻によって、本来子どもの少ない高齢者が夫婦のみか一人暮らしになってしまった。(2)子女が他の地域へ就学や仕事に出掛けているから、家を守る意味で留守役になった。(3)改革解放前の中国では、都市戸籍と農村戸籍の2つの制度が併存していた。農村戸籍をもつ人が都市戸籍に変更するのは大変厳しくチェックされ、簡単にはできなかった。ところが、市場経済の導入につれ、農村戸籍の人も都市に行き、職を求めることが可能になった。また、土地を徴用されることによって、農村から都市へ移る若者が増え、彼らの親が農村に取り残された。(4)農村経済の急速な発展につれ、農民が豊かになり、一部の農村地域は都市化され、その周辺に新しい「集鎮」(町)ができ新しいマンション等を購入して、若者は親の家を出た。ときには親が子どもの結婚のために建てた家も子どもの就業事情で結局は自分で「留守役」となって住むような事態も生まれている。

 

最近、都市化によって農村地域の県から市区部の区に変わった嘉定区について、上海市老齢委員会が、その当区の農村「留守役老人」の事情に関して、馬陸鎮の16村、3,672世帯の5,287人高齢者60歳以上を5回にわたって調査している。調査の結果によれば、農村「留守役老人」の増加の重要な原因は、農村地区の都市化が進行し、集鎮(町)の規模がますます拡大し、大勢の若者が新築のマンションを買って移住したことが明らかになっている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION