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には十分だとは思っていないのである。10人の子どもを持つアフリカからの移民家族が、寒いフランスでは生活したくないが、家族給付に生活を支えられているので帰国できないと言っていたのと対照的であった。

本稿でもみたように、フランスの家族給付制度は乳幼児がいる家庭や多子家庭に有利になっている。1997年1月に「家族に関する協議会」が提出した報告書では、ライフ・サイクルを考慮して家族政策を改善し、子どもを家族の中心に据えてることが必要だと述べられていた。つまり乳幼児だけではなく、年齢が高い子どものことも考慮しなければならないと主張されているのである。今後もフランスの家族政策は、時代の流れに沿って改善されていくであろう。しかし社会保障制度の財政赤字をいかに解決するかという深刻な問題が残っている。

 

ところで戦後のフランスは、家族政策ばかりではなく、国民に対する社会保障を充実させてきた。現在では世帯所得の平均31%が社会保険料として支払われている。国民に対する社会保障や社会扶助の面だけではなく、政府や自治体は事業や社会活動にも様々な補助金を支給している。フランスでは税金や社会保険を多く支払って、それを取り戻す仕組みになっているのである。

 

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フランス政府が国民に社会保護政策を押しつけているとは感じない。フランス人は、日常生活でも基本的な条件にプライオリティーを置いているからだ。フランス人の生活ぶりは堅実であり、所得はまず基本的な住居費や食費に費やされている。セントラルヒーティングもない小さなアパートに住みながら、高級ブランド商品を購入したり、海外旅行をしたりすることは、フランス人には考えられないことである。フランス人は日本人といえば金持ちと考えるのだが、私の目から見れば、フランス人の日常生活レベルは日本より水準が高いと感じる。それに長期休暇を取る習慣は徹底しており、家族で過ごす時間は日本よりはるかに尊重されている。日本では部分的あるいは一時的な贅沢をすることによって心の豊かさを得ているように感じるが、フランスに暮らしていると本当の豊かさとは何かと常に考えてしまう。

福祉国家が良いと一概に言えるのかどうかは分からない。しかし日本の社会のあり方は、経済が好調なときに作動するものである。日本にフランスのような深刻な経済危機が訪れたときには、国民の生活はどうなってしまうだろうか。フランス人は税金や社会保険料が高いと嘆くが、拠出された資金は有効に利用されているように感じる。日本ではボランティアに頼らなければならないことも、フランスでは行政が行っているからである。また老後に関しても、配偶者と別れて一人で子どもを育てることになった場合でも、事故などにより身体障害者となった時などでも、少なくとも経済的な問題で悩むことはない。今日のフランスの家族政策も、ただ出産奨励をして人口増加を図るためではなく、家族を扶養する者に援助を与えることによって国民の生活を保障し、ひいては国家の将来を守っているのである。

 

 

 

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